現パロ小十郎

□Xmas illumination
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「着いたよ」


小十郎様が行先を変えてからどの位経っただろうか。
普段見るネオンの輝く街並みから外れ、外の明かりが疎らになってきた頃、ふいに小十郎様が私に声を掛けた。

「え…?」

辺りは暗く何も無い。

しかし、キョトンとした次の瞬間、突然目の前が幻想的な灯りに包まれた。


「…わ…!」


車窓の外を流れるのは、辺り一面を覆う光のイルミネーション。

まるで夢の国に来たかのように、木々や庭園を象った電飾が所狭しと散りばめられていた。

「凄い…! こんな所初めてですっ…!」

車が進む度に景色を変えていくクリスマスの夜に相応しい光の洪水。
それらを食い入るように見つめ興奮気味に声を上げると、 運転席の小十郎様がくすくすと楽しげに笑う声が聞こえた。

「都内で唯一車で来られるイルミネーションらしいよ」

「そうなんですか? …すごい…綺麗…」

何処かの庭園を丸ごとイルミネーションにしたようなその場所は、今日がクリスマスイブだと物語るように沢山のカップルが寄り添いながら歩いていた。

「…降りてみる?」

「はいっ!」

目の前に広がるキラキラと幻想的に輝くイルミネーションを前に、先程まで感じていた緊張感や不安もいつの間にか綺麗さっぱり吹き飛んでいた。
思わず元気良く返事をすると、再び小さく笑う声が聞こえた。

まさか、こんな場所に小十郎様と来られるなんて。

もし、ただの気まぐれや叱られた事へのお詫びの気持ちだったとしても構わない。
好きな人とクリスマスイブにこんなに綺麗なイルミネーションを見られる。
ただそれだけで神様がくれた最高のクリスマスプレゼントだと思えた。




小十郎様の節ばった手がシフトレバーを握り流れるようにギアを入れ直す。
シートベルトを外す音が聞こえ、そのうちに高い機械音が鳴り出した為、車がバックし始めたのだと分かった。

外に出るために小十郎様が駐車して下さっているその隣で、私はフロントガラスいっぱいに映る目の前のイルミネーションに目を奪われていた。

((…どうしよう…嬉しい))

いつの間にか、足が痛い事も、叱られた事も、マリアさんにヤキモチを妬いたこともすっかりどうでも良くなっていた。
小十郎様と光の海を歩ける事が、嬉しくて嬉しくて口元が緩むのを抑えきれない。

その時、不意に小十郎様の手が私の居る助手席のヘッドレストに掛かった。


((…わっ…!!))


近づいた真剣な横顔に、ドキッと心臓が跳ね上がる。

バックする為だとは分かっているものの、もう少しで触れ合いそうな程の至近距離に再びじわじわ頬が熱くなる。
先程まで感じていた緊張感が再び胸に込み上げて来た。

しかし、ドキドキして恥ずかしくて仕方が無いのに、運転席側のその光景から目が離せない。


((…こんなの、反則…))


胸が苦しい程に締め付けられる。

好きの気持ちが抑えきれない。

外のイルミネーションに照らされた小十郎様の横顔に出来た影の濃淡が酷く綺麗で胸がいっぱいになってしまった。

そのまま車がピタリと動きを止める。
再び正面に向き直った小十郎様は、私の視線には気付いて居ないのかそのままギアをパーキングに入れ直した。

機械音が止み、再び車内にエンジン音だけが響く。


「駄目だな…」

「…?」


シートに背中を預けた小十郎様がポツリとそう呟いた。
何か有ったのだろうか、と思わず目を瞬かせてそちらを見上げると、沢山の光を反射した翡翠の瞳が私を捉えた。


「…そんなに見つめられたら、我慢出来るはず無いだろう?」

「え…っ…」


一瞬何が起こったのかが分からなかった。

先程までヘッドレストに掛かっていた手が再びこちらに伸び、私の頭を引き寄せた。

「…っ…!」

キスされたのだと気付いたのは、小十郎様の唇が離れた後だった。


「…ごめん。我慢できなかった」


小十郎様の唇が離れ、掠れた吐息が私の鼻先をくすぐった。


「…好きなんだ」


吐息が触れ合う距離で囁かれた言葉。
それが私が小十郎様に抱いている気持ちと同じ物だと分かり、瞬間燃えるように身体が熱くなった。


「…お前が別の男と居るのが許せなかった」

「あ…」


それが、私が河東社長に連れて行かれそうになった時の事だと分かった。

((…だから…あんな風に…))

普段なら相手を責め立てるような叱り方をしない小十郎様に続け様に叱責されたのを思い出す。

「…お前が政宗様のパートナーになるのだって、本当は嫌だったんだ…」

「え…」

まさか、小十郎様が誰よりも大切に思っている政宗様にまでそんな感情を抱いているとは思わず目を丸くしてしまう。


「…政宗様に嫉妬する位、 お前の事に関しては自制が効かない」


そのまま躊躇いがちに、きゅっとその腕の中に引き寄せられた。
ふわりと香る香水と、その奥にある煙草の匂い。
壊れ物を扱うように抱き締められると、胸の奥がきゅうっと音を立てた。


「…何か言ってくれないか…?」

「あ…」

小十郎様が腕の中に居る私の顔を覗き込んでいた。
困ったように笑みを浮かべた小十郎様の表情にとくん…と胸が鳴る。

「…てっきり苗字も俺の事を好いてくれてると思ったんだけどな。…違う?」

「っ…ち……違わないっ…です…!」

首を傾げて問う小十郎様に思わず声をあげてそれを否定した。
しかし、その後すぐにハッとする。

「小十郎様…私の気持ち…知って…?」

「まあね」

くすり…と口元に笑みを浮かべた小十郎様。
その笑顔はまさに大人の男性そのものだった。

「…っ…」

必死に隠してきた気持ちが実はずっと気付かれて居たのだと思えば、恥ずかしさで顔がカッと熱を持つ。

「…だから、余計に他の女性と一緒にいる所は見られたく無かったよ」

「…小十郎様…」

パーティー会場で小十郎様が私を見てくれなかった事も、マリアさんと一緒いる所を見られたくない気まずさ故だったのだと気づけば得心がいった。

「寂しい思いさせてごめんな。」

「…いえ…。 もう、寂しくないです…」

小十郎様の胸に、そっと額を押し付ける。
すると、小十郎様が私の頭を撫でてゆっくりと身体を離した。


「じゃあ、今から二人でクリスマスイブのやり直しだな」

「ふふ…はい。」




眩いばかりのイルミネーションの中を二人で手を繋いで歩く。
頬を刺すような夜の空気が冷たかったけれど、だからこそ余計に触れた大きな手が温かかった。


「そう言えば、言い忘れてた」


ブルーとホワイトの電飾が散りばめられた光の滝の前で小十郎様が私に向き直る。

「?」

何かと思って首を傾げると、小十郎様が私の指先にちゅっと口付けて笑う。


「今日の弥彦、本当に綺麗だよ」




終わり




クリスマスイブも小十郎様ヤキモチ全開。
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