現パロ小十郎

□会社がピンチB
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『俺の女になれ。そうすればこの会社を救ってやる』


武田様の腕の中で突然告げられたにわかには信じられない言葉に、私は目を見開いたまま呆然と固まっていた。

「え…ぁ…あ、の…」

何か言わなくてはと思いながらも、武田様の余りにも力強い腕の中に囚われ、頭が真っ白になり何も考えつかない。

((私が武田様の…?))

会社を救ってくれる。
確かに武田様はそう仰った。
しかし、『女』になるとは…つまり、どういう事なのだろうか。
纏まらない考えがぐるぐると頭の中を巡っている。

突然近づいた初対面の男性との距離にドキドキと心臓が早鐘を打つ音が耳に響く。

何か言わなくてはいけない。
しかし、何の言葉も出てこない。


「どうした?」

燃えるような強い意志を湛えた瞳が眇られ、思いがけず優しい表情が私を捉えた。

「………あ…」

男性経験の少なさゆえなのだろうか。
こういう時、どうやってこの場から逃げ出せば良いのかがまるで分からない。


完全に思考が停止してしまった私を救ったのは、静かな山本様の一言だった。

「…晴信、戯れも大概にしておけ。到着したようだ」

「ん? ああ、来ちまったのか。」

楽しげにニヤリと笑った武田様は、何事も無かったかのように私をその腕から解放すると、長い脚を組んでソファに座り直す。


その直後に社長室のドアがノックされ、政宗様と小十郎様、それに数人の重役の方々が姿を見せた。
やっと現れた見知った存在の登場に、今にも膝から崩れ落ちそうな程にホッとした気持ちになった。


「よぉ、息災みてえだな」

ドアから入室した政宗様を見るなり、武田様は不遜な笑みを湛えてそう告げた。
武田様の尊大な態度に、政宗様の後ろに控えていた数名の重役方が、一瞬その威圧感に気圧されたかのように狼狽えたのが見て取れた。

「わざわざこちらまで御足労頂き感謝する」

そんな武田様を視界に捉えた政宗様は、特に動じる様子も無く静かにそう答えると、武田様の元に歩み寄った。

「いや、構わねえよ。久々に会ってみれば随分と様になってきたじゃねえか」

武田様はソファから立ち上がり政宗様に右手を差し出し、自然と軽く握手を交わした。

「武田様、ご無沙汰しております」

その後ろから、傍に立っていた小十郎様がにこやかな笑みを湛えて武田様に小さく頭を下げた。
それを見た武田様は再びニヤリと笑い、小十郎様に右手を差し出した。


「よお、小十郎。 お前の噂も聞いてるぜ。相変わらずやり手らしいな」

「武田様も相変わらず破天荒なようですね。 お元気そうで安心致しました」


がっちりと手を握り合った後、小十郎様がすっとソファに掌を向けて武田様に着席を促した。
大きな身体が再びどかりとソファに腰を下ろすと、その他の重役方も武田様に御挨拶をする。

どうやら武田様は余りビジネスライクな方では無いようで、こう言った場で必ず見られる名刺交換も自らはしようとはせず、その隣に居た山本様が武田様の分と一緒に重役方と名刺交換を行っているようだった。



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