現パロ小十郎

□副社長の出張帰り
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「お帰り」
「た…ただいま帰りました…」

都内にある高級マンションの上層階。
オートロックを解除して貰い進んだ先には、私の住んでいる月6万円のワンルームが恥ずかしくなる程豪華な小十郎様の自宅。

一人暮らしだと言うのに、3LDKの間取りのそのマンションは部屋数が多い癖にただただ広い。
私の実家もすっぽり入るほどの専有面積。
ここで犬でも放し飼いにしたら一日中駆け回れるんじゃないかとすら思う程だった。
とは言え、この部屋数も片付けが出来ずに直ぐに物が溢れてしまうため、物置として使える部屋が多い方が良いからと言って選んだらしいのだけど…。



出迎えてくれた小十郎様はそんな高級マンションに似つかわないようなラフな格好で私を見下ろして微笑んでみせた。

「お疲れ様。」
「あ…いえ…小十郎様こそお疲れ様でした」

昼間会った時にはキッチリと整えてあった髪型も、今は聡明そうな額を隠すように降りていて些か幼い印象を与えている。

スラックスにシャツを羽織っただけの小十郎様からは、ふわりと爽やかな香水が微かに香った。
今日は煙草の香りがしていないのは、シャワーを浴びたからだろうか。

「お腹空きましたよね? ご飯にしましょうか」

どぎまぎしながらそう言うと、小十郎様は困ったように息を吐いた。

「確かにお前の手料理が恋しくて帰国したが…2週間ぶりの再会でそんなすげない態度は無いんじゃないか?」
「えっ…?!」

拗ねたような口振りの小十郎様に驚いて目を瞬(しばたた)かせると、すっと長い腕が広げられる。

「言っただろう。限界なんだ、胸に飛び込んで来てくれる位期待してはいけない?」

その言葉と甘えるような表情にカーッと頬が熱を持った。
広げた腕に飛び込めと言う小十郎様の顔をチラリと見れば、「早く」と言わんばかりに期待の眼差しがこちらに注がれて居る。

「っ…し…失礼…しますっ」

まさか、あの小十郎様の胸に自ら飛び込むなんて未来は、上京した頃の私には考えもつかない事だった。
奥州グループ社員からの憧れの的で有る小十郎様に、料理だけが取り柄の田舎娘がこうして愛されるなんて、何処の誰が想像しただろう。

おずおずと広げられた腕に収まると、その広い胸にきゅっと閉じ込められた。
逞しい胸板に頬を寄せ背中に腕を回すと、久しぶりの温もりに胸がとくとくと早鐘を鳴らした。

「やっと触れられた…」
「んっ…」

甘えるように首筋に鼻先を埋める小十郎様にビクッと身体を震わせる。
会社から直行した為、シャワーも浴びて居ない。
急いで電車に駆け込んで汗をかいた事を思えば、その匂いを嗅がれてしまうのは殺人的に恥ずかしい事な訳で…

「こ、小十郎様っ…あ、汗かいているので…っ」

慌てて小十郎様の胸を押し返そうとすると、そうされた本人は不思議そうに首を傾げた。

「ん? 汗…? 汗の匂いなのか、ん…いい匂い…甘い匂いがする…」
「きゃっ!!! だ、だ、ダメッ!!」

ますます腕に抱き込まれ、首筋をスンスンと嗅がれてしまい、挙句の果てにはそこに唇まで押し付けられ、血液が沸騰しそうになった。

「こ、こ、小十郎様!! 中にっ…中に入りましょうっ!」

「うん?」

まだスリッパを履いただけで玄関からほぼ動いていない。
それにやっと気付いたのか、小十郎様は納得したように頷き私の肩を抱いてリビングへと誘(いざな)ってくれた。

広すぎるリビングに置かれたソファー。
その傍にあるローテーブルには、ビールの缶と煙草の箱、愛用のZippoが置かれている。

「あ、飲んでいらしたんですか?」
「いや、弥彦が帰ってくるまでの繋ぎ」
「繋ぎ?」

やはりお腹が空いていたのかと思い、小十郎様を見上げると、狙っていたかのようにチュッと口付けられてしまった。

「んっ…!」

驚いて目を丸くすると、小十郎様がニッコリと笑う。

「手持ち無沙汰だと煙草が吸いたくなるからね。ビールで繋いでた」
「え…?」

ビールと煙草にどんな関係が有るのか分からずキョトンとしていると、再び小十郎様の唇が私の唇を塞ぐ。

「んっ…」

今度は触れるだけではなく、ゆっくりと味わうように啄まれ舌で口内を舐め取られてしまう。

「んっ…ぅ…」

滑らかな小十郎様の舌に触れると、確かにほんのりとビールの味がする。
そこに煙草の苦味は残って居らず、本当にずっと吸っていなかったと言う事が分かった。
しかし、どうしてわざわざ煙草を我慢していたのだろうか?と頭に疑問符が浮かぶ。

確かに吸ったばかりの時にキスをすると、独特の苦味が口に残る事があったけれど、それを嫌だと思った事は無かった。
コーヒーと煙草の味がするほろ苦い口付けも、小十郎様を感じる一つのスパイスのような気がしていたからだ。

「ん…っ…」

ちゅっと音を立てて唇を離すと、小十郎様が微笑んだ。

「…弥彦はこんなに甘いのに、煙草の味に邪魔されたら勿体ないだろう?」

「っ…!!」

サラッと笑顔でとんでもない事を言ってのける小十郎様にますます頬が熱くなってくる。

「それに、弥彦が来れば煙草も要らないし」
「んっ…」

そう言うと再び小十郎様に深く口付けられてしまう。
確かに、付き合う以前は灰皿に山のようにつまれていた吸殻も今は殆どその姿を見なくなっていた。
私がいる間は吸わないで居てくれる小十郎様の優しさだとばかり思っていたが、よく考えれば吸う暇も無いほどにキスばかりしているのだから、吸殻が無いのも当然と言えば当然だった。


大きな身体に包まれながら、くすぐるように舌を絡められ、段々と私の身体にも熱が灯り始める。

「ん…っ…んぅ…ふ…ぁ…」

ピクンッと身体を震わせると、それを合図にしたかのように、ソファに押し倒されてしまう。

「んっ…小十郎様っ…ぁ…」

ふわりとソファに背中を包まれるものの、これから起こるであろう甘美な時間を考えれば、ここで流されるわけには行かないと、必死に声を上げた。

「せ…せめてシャワーを…!」
「うん…? 終わったら浴びるだろう?」
「…へ!?」
「どうせ汗かくし、気にしなくて構わないよ」
「そっ…そういう問題じゃ…っぁ!」

柔らかく微笑む小十郎様に手首を捕まれ、そのままソファに押し沈められてしまう。

「…可愛い…。会いたかった」
「んっ…ぁっ…!」

長い指先がするするとスカートの裾をたくし上げ、私の太ももを撫で上げていく。

「あ、ガーターだ」
「ぁっ…!」

太もものレースをなぞられ、ぞくり…と身体に痺れが走る。
嬉しそうに笑う小十郎様に何も言えなくなり、結局そのまま縺れるように2週間ぶりの互いの熱を重ね合ったのだった。





終わり






「小十郎様…そろそろシャワーを…」
「うん? でも、もう一回したい…」
「ちょ…! あっ…!」


結局この繰り返しを3回(笑)
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