恋乱倉庫

□社会現象は現代だけに留まらない
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「凄いですね。成実様!もう70匹も捕まえたんですか!」

「おう! 米沢に来るまでの間にすげー珍しいの沢山見つけたぞ」

「そうなんですか!私は城下とお城の往復だけなので…まだ30匹位なんです」

「じゃあ、弥彦も大森城まで来るか?」

「わぁ。行ってみたいです」

執務室でわいわいと楽しそうに話しをする成実と弥彦。
2人の手には『すまほ』が握られており、今にも頭がぶつかりそうな程に近い距離でお互いのそれを覗き込んでいる。

「…。」

その仲良さげな光景を明らかにイライラした様子で見ている小十郎に全く気づく様子も無い。

「成実様はもう、じむには行きましたか?」

「行ったぞー! 俺は黄色だからな!ここら辺の赤と青のじむは大体闘ってきたぞ!」

「そうなんですか! すごーい!」

「きずぐすり大量に使うからぽけすとっぷにかなり通ったぞ〜。大森の方なんて全然無いから困ってるんだよ」

「…。」

先程から延々と続くこの意味不明の会話に入る事も出来ず、小十郎はただひたすらイライラしながらその様子を眺めていた。
仕事が片付いた昼下がりに、弥彦とゆっくりお茶をしようと思っていた矢先『すまほ』を持った成実が現れたのだった。


「…成実様、卵を孵化するふかそうちはどうやって使うんですか?」

「ああ、それはな、ここを…こうやって」

葵が成実に何かを質問した時、成実が葵の手元を覗き込み、今にも身体を抱き込むのでは無いかと言うほどに接近し始めた。
その様子に流石の小十郎も我慢が出来なくなり声を上げた。

「いい加減にしないか、2人とも」

「え…?」
「へ…?」

ピシャリと鋭い声が聞こえて、漸く2人は顔を上げて小十郎の方に視線を向けた。

「弥彦も、余り成実に近づくんじゃない。」
「あ…! でも…卵が…」

弥彦の腰をぐいっと抱き寄せ自分の方へ引き寄せると、操作の途中だったのか不服そうな声が腕の中から上がる。
それが益々小十郎の眉間のシワを深くさせた。


「卵がなんとか、青とか赤とか、ぽけなんとかとか、さっきから一体何の話をしているんだ。それは成実に近寄らないと出来ない事なのか?」

「おいおい、小十郎ー!『ぽけもん ごー』知らないのか?」

弥彦を抱き寄せたまま不機嫌そうな小十郎が眉根を寄せると、すかさず成実があっけらかんとした声を上げた。
全く聞きなれない単語にますます小十郎は顔を顰める。


「…知る筈ないだろう」

「あー。そうだよなー。小十郎俺達と1個世代ズレてるもんな! 」

「…どういう事だ」

意味不明な会話に弥彦を取られた挙句、理不尽に年寄り扱いをされ、ますます機嫌が悪くなる小十郎の腕の中で葵が『すまほ』の画面を見せた。

「小十郎様、これです。この画面に映っている動物を捕まえて図鑑にするんですよ」

「…何なんだ…このネズミや鳥は…」

「これが『ぽけもん』です」

ニコッと腕の中で楽しげに笑う弥彦に小十郎は異国の言葉を聞いているような気がしてきて頭を抱えた。

「…お前達は、この動物を捕まえる話しをしていたのか?」

「そうだぞー!俺たちぽけもん世代だからドンピシャなんだよなー!」

「田中さんもやってらっしゃいましたよ」

「田中もやってんのかー!あとでここらへんで良く出る場所聞きに行こうぜ。あいつ結構マメだし」

「もう…何が起こってるんだ米沢で…」

はぁ…と深いため息を吐く小十郎を見上げて弥彦が苦笑しながらスマホの画面を終了させた。

「ごめんなさい。小十郎様、もう終わりにしますね」

「ああ…そうしてくれ…疎外感どころか浦島太郎にでもなったような気分になった…」

自分の腰を抱いてガックリと項垂れる小十郎に弥彦もよしよしと頭を撫でる。


「大変だなぁ小十郎。弥彦と一回り離れてると一緒に遊べないなぁ」

弥彦に慰められる小十郎を見ながら成実がクスクスと楽しげに笑って見せた。
そんな成実に小十郎は疲れたような顔を向けながら言う。

「…別に俺はこんな事を弥彦としたいと思ってはいな…」

「ああ!!弥彦!!今この部屋にぴかちゅーが居るぞ!!」

「ええっ!!」

「おい…人の話しを…」

「小十郎。入るぞ」

その瞬間、小十郎の部屋の障子がスパンっと勢いよく開いた。

「ま、政宗様…?如何致しましたか」

勢い良く障子を開けたのは、まさしくこの城の当主その人で、普段物静かな政宗が勢いよく障子を開けたことに小十郎は目を丸くしてそちらに視線を向けた。


「…この部屋にぴかちゅうが出た。」


その手にしっかりと握られた『すまほ』を見て、小十郎はその場に崩れ落ちたのだった。








ポケモン世代と知らない世代の隔たり(笑)

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