僕の恋したアンドロイド

□検索完了しました
1ページ/1ページ


防衛任務のない夕方。

ちょうど中庭から少し離れたところに所謂裏庭があり、中庭と違い人気がない場所がある。

人気が無いにも関わらず、そこから見る夕日はとても綺麗で、女々しいかもしれないが静かに過ごすには絶好の場所で、彼、出水のお気に入りの場所だった。



告白には最高のシチュエーションだろオイ。
目の前には勇気を出して呼び出した同い年の女子。

いつも通り無表情だがそこもいい。

ここなら邪魔も入らない。
もちろん断られたからってしつこくかっこ悪くすがるなんてことはしないんだが、見られていいわけじゃない。

「あの、さ。澪梨」

佐久間 澪梨。

同じ17歳。
高校は知らない。
が、ボーダー唯一の特別隊員。
計算高く滅多なことじゃ負けないコイツは一年ほど前に上層部がどこからか突然連れてきた。

スカウトとはいえ、入りたての癖に特別隊員だなんてやはりB級下位やC級からすれば面白くなく、いちゃもんをつけては模擬戦を強要する姿にプライドもねーのかよと呆れ、さらにそれを受ける彼女にも少しながらこちらとしても面白くない。
もちろん、強いに越したことはないし、実力を見せるのも必要だ。それなのにあんなにもポンポンと安請け合いするのはどうも好かなかった。
しかし、そんな考えは彼女の戦う姿に圧倒され消え去った。

力で押し切るでもない、スカウトされたであろうそのトリオン量をフルに使い火力でゴリ押すでもない。
ただ、当然のように切り裂き、当然のように打ち抜く。

彼女は相手の動きを『知っている』かのように、隊員が着地する地点に既に立っていたり、避けたはずの弾が何故か今立っている相手のトリオン供給器官や頭を貫いている。

相手はどんなに反応して動いても全て彼女の計算上の動きでしかなかった。
すべてを熟知し、すべての動きを知っている。
こう動けば、相手の動きは数パターンであると予測ができるらしく、数十人いや、百数人いたかもしれない正隊員を含む訓練生達、初心者ではないものを一切の反撃を許さずに叩きのめした。

隊服であろう衣服と長い髪を靡かせ、その戦う姿は畏怖をも感じさせるが、同時に美しいものだった。

「お前が、好きだ。良かったら、付き合ってくれねぇか?」

いや、俺が好きになったのはそれだけじゃない。
確かに綺麗だなって思ったし、美人だなって思った。好みだったし。でも、彼女以外にもそこそこの美人が揃うボーダーで何年もいるとそこそこ耐性がつき、顔だけで落ちることはまぁない。
何故かあんなにも凛とした戦う姿とは裏腹に、何故かとんでもなく天然なのだ。
そうでなければ、ボーっとしてるってところか?

じゃなけりゃ、初対面が男子トイレなんてありえないしな。

おかしいだろ?
普通間違えて入っちまったにしても慌てて出ていくだろ?
なのにゆっくりたっぷり辺りを見回しマークを確認して、

「あ。違う」

つってまたゆっくり出て行きやがった。
その時最初は実は男なのかと勘違いしたぞ。
あれ、なんで俺コイツのこと好きなのか分からなくなってきたぞ?

とにかく、俺は澪梨が好きなのだ。
放っておけないっていうのと戦う姿とのギャップにやられたってことにしておいてくれ。

おっと。そろそろ返事をくれてもいいんじゃないか?
こんなに饒舌なのは結構返事がなくってテンパってるからだからな?

「…お、おい澪梨?」

「検索完了しました」

検索?

ぼーっとしたままだった目に彼女がこちらを向いたことにより俺が映る。

「現在の会話データにありうる物に当てはまるものがありませんでしたので外部ネットワークに繋げ、検索をしていた為遅くなりました。すみません」

は?なんのことだ?データ?

「最初に確認のためお聞きしますが出水くんがおっしゃる『好きだ。付き合ってくれねぇか?』というのは゛異性間交友とし『付き合う』つまり『男女関係になる』゛という解釈でよかったでしょうか?」


まてまてまて

「あ、あぁ…ってそう改めて言われると恥ずかしいからやめてくんねぇか!?」

あれ、これは天然に入るのか?

「間違ってないのなら良かったです。検索結果に最も多いワードでしたので、でも、申し訳ありません」

頭を下げる澪梨においてけぼりになるのは俺のほうだった。

「え…ちょっちょっと待てよ…え?」

「私は出水くんと男女関係になることはできません」

ま じ か

「…ほかに、好きな奴がいんのか?それとも、単に俺がそういう風に見えないとか?」

理由だけは聞かせてくれ。
流石に断られてすぐ引き下がれる程できた男じゃねぇんだわ。

「いえ、出水くんに非があるわけでも、私自身にそういう物があるわけでもありません…でも、原因は私にあります」

「…?どういうことだ?」

「?ご存知ないんですか?」

「なにが?」

「私は、ボーダーの開発室が開発した思考型アンドロイドです。所謂自律トリオン兵にネットワーク回線を引いたようなロボットの試作機ですね」

時間が止まった。

待て待て待て。は?
自律トリオン兵?アンドロイド?

「つーことは…お前は、人間じゃないってことか…?」

聞いてねーよなんだそれ俺が聞いてねぇってことは結構な重要機密じゃねーのかこれ!

「そうですね。極力人間に近づけるように喜怒哀楽の感情はチップとしてセットアップされてますがやはり、人間とは程遠いですね…」

と少し悲しげに目を伏せた。
初めてこいつの感情部分に触れた気がした。

「…なら1ヶ月、いや半月!俺と付き合ってくれ。俺がお前を人間に近づけてやる!」

こうなりゃやけくそだ!
ロボット?トリオン兵?アンドロイド?んなこたない!
関係ねぇ!俺が好きになったのはコイツだからな!

「…?でも、人間とアンドロイドでは「関係ねぇよ!一般常識じゃなくてお前自身がどう思うかだ!検索すんじゃねえぞ?」……人間に、触れている間に、どうしようもなく、面倒で、大変な生き物だと思いました。嫉妬、羨望、好意、嫌悪、色んな感情に触れてきました。」

あー…これは、人間になんかなりたくない、か?

「でも、そんなどうしようもない人間たちを見て、少し、羨ましくなりました。゛心゛というのは厄介なものだと聞いています。でも、そんな厄介なものを欲しいと思うようになりました」

「…そうか」

「私には、感情はセットアップしないと感じられません。それでも、私を人間にしてくれますか?」

その答えに思わず口元が緩む。
んだよ、ほんっとめんどくせーけど、やっぱり惚れた弱みってのか?

「あぁ!大船に乗ったつもりでいろよ!」

嬉しすぎてどうかしそうだ。


検索完了しました。



*
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ