欲しいものは1つだけ

□第10話
1ページ/11ページ

喜一に押し切られるようにして付き合うようになってから約1週間は経っただろうか。

付き合うと言っても、俺がバイトで忙しかったりしたから今のところ恋人らしいことなんて何もしていないけど。いつものように大学内で会って喋ったりするだけだ。

そもそも付き合う、なんてどうしたらいいのかもわからなくて。
だって今まで女の子とすら付き合ったことなんかないのに。

でもこうして喜一と付き合ってるんだって思うだけで顔が火照ってしまう。
今にもまた火照ってきそうで、頬を手で覆うとため息をついた。

「はぁー…」
「お、なんだよ和真。最近ため息多いじゃん。まぁ確かにレポートのことを思うと頭痛いよなー」
「え?あ、うん。そうなんだよね」

隣に立っている亮太に曖昧に笑い返した。

ため息をついたのはレポートのことじゃないんだけど…まぁいっか、喜一と付き合ってることなんか言えないし。

今は昼休みで、俺は亮太と大学の図書館に来ていた。
昨日出された課題のレポートの為に資料となる本を探しているところだ。
前回に出た課題の時は最後の方に焦ってすることになってしまったから、今回は早めに終わらそうというわけだ。

「っていうかさぁ、俺久々に図書館に来たけど図書館にも意外とカップルとか多いのなー。図書館なんかで何してんだろ」

周りをキョロッと見回した亮太がボソッとそう言った。

「ん?あー、うん。気にしたことなかったけど、確かに言われてみればいつも何組かいてるかも。一緒に課題したり喋ってるんじゃない?」
「へぇ、そっかぁ」

図書館内にはテーブル席がいくつかあって、俺達が今立っている場所から丁度見渡せるのだが、1人で座っている学生やグループの他にカップルらしき人達がいる。
煩く喋っているわけではないけど幸せそうな雰囲気が漂っているからたぶんカップルなんだと思う。

「あぁ、いいよなぁー。同じ大学同士で付き合えるって。いつでも会えるじゃん。俺も彼女と同じ大学ならよかったなぁ」
「そうだね」
「まぁでも進路が違うから仕方ないんだけどさぁ」
「うん」

そっか。亮太の彼女は違う大学だもんな。やっぱり寂しいのかな…。

図書館内にいるカップルを羨ましそうに見ている亮太の横顔をなんとなく見ていると、亮太がパッとこっちを向いた。

「あっ、でも勘違いすんなよ。別にこの大学が嫌なわけじゃないから!彼女はいないけど、和真もいるしさ。
最近彼女と会えてないから愚痴っちゃった。すまん」
「はは、大丈夫だって。勘違いなんかしてないし」
「へへ。さ、無駄話ししてないで本探さなきゃなー」

照れくさくなったのか亮太が頭をかくとまた本棚へと向き合った。

「…」

遠距離かぁ。遠距離だとしても俺には亮太が羨ましいよ。
そりゃ喜一とは同じ大学だからいつでも会えるんだろうけど…。
でも、俺達は男同士だし。

自分が喜一のことが好きなんだと自覚して戸惑わなかったわけはない。だって、まさかそんな…男の人を好きになるなんて思わなかったもん。
俺って実はゲイだったのかって悩んだ。まぁ今まで誰も好きな人ができなかったから、実際はどうなのかはわからないけど…。

でも喜一はどうなんだ?ゲイ…ではないと思う。だってたくさんの女の子と付き合うのを見てきたから。
喜一はいつかやっぱり女の子の方を選ぶんだろうなぁって思ってしまう。

告白してもらえて付き合うことになったあの時は、すごく嬉しくて幸せだったけど、少し時間が経って冷静になってみると、困惑の方が大きくなっていた。

なんで俺なんかを好きになってくれたんだろう、男の俺なんかでいいのかなって。
それでも。戸惑いながらも喜一と付き合えるのは嬉しいんだけどさ…。

でもこの幸せがいつまで続くのかと思うと怖いというか。ただ嬉しいだけではいられない、なんとも複雑な気持ちだった。

そんなことを思っていると、またため息が出そうになったから、唇をキュッと噛みしめた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ