欲しいものは1つだけ
□第7話
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ー次の日の大学。
「はぁー今日は講義多いしマジでだるかったよな。眠いー」
「はは、亮太にしては珍しくちゃんと授業受けてたもんね」
「そりゃ俺だってたまにはな」
今日の講義を終えた俺と亮太は講義室を出て廊下を歩きながら喋っている。
隣を歩く亮太は講義によほど疲れたのか足どりも重い。
「和真はもう帰んの?俺今日サークル無いんだよな。一緒に帰らねー?」
「あ、ごめん。俺も一緒に帰りたいんだけど、今日はちょっと用事があるんだよね」
顔の前で手の平を合わせる。
「そっかぁ、残念。まぁ仕方ないな。俺は早く帰って昼寝でもするわ」
「うん、ごめん。また今度一緒に帰ろうな。
あ…っと、じゃあ俺はこっち行くから」
「オッケ。んじゃまた明日なー」
「うん。また明日」
分かれ道で亮太が手を振って帰って行くのを見送った後、俺もそのままある場所へと向かう。
俺がやって来たのはいつものベンチ。
キョロキョロと周りを見回すが目当ての人物はまだ来ていないようだ。
「ふぅ…」
鞄を置いてベンチに座るとぼんやりと昨日のことを思い出す。
まさかあの木山君が妖怪だったなんてな…。
実は昨日はあの後すぐに他のバイトの子が部屋に入ってきてしまったから、話しの途中で終わってしまったのだった。
詳しいことは聞けなかったし、正直まだ驚いていて信じられない気持ちが大きい。
喜一に関しては実際に獣耳が見えているから実感があるんだけど。
対して木山君は見た目からは何もわからないから。
あ、もちろん木山君が嘘をついているなんて思ってはいないけど。
とにかく、昨日は気になってあんまり寝られなかった。
…最近あんまり寝れてないような気がする。
「森崎さん、お待たせしてすみませんっ。遅くなりました」
「っあ、木山君。ううん、俺もさっき来たとこだから大丈夫」
しばらくして何度目かのあくびが出そうになった時に、待っていた人物が向こうから走ってきた。
そう、昨日は話しがあのままで終わってしまったから、もう少し話したいという木山君と今日ここで待ち合わせをしたのだった。
「ほんとすみませんっ、講義が長引いちゃって…」
申し訳なさそうに謝っている目の前の木山君はやっぱり妖怪になんて見えないんだけどな…。
「全然大丈夫だって。あるよね、講義長引くこと。あ、隣座りなよ」
「…っ」
俺がニコッと笑うと木山君が目を見開いた。
「どうしたの、木山君?座らないの?」
「っあ、すみません。
嬉しいなぁと思って。またこうやって普通に喋ってもらえることが信じられないです。
思わず正体バラしちゃったけど…怖くないんですか?俺のこと」
走ってきたせいで乱れた髪の毛を整えながら、木山君が俺の隣に少し距離を開けておずおずと座った。
「怖い?怖くなんてないよ。
すごくびっくりはしたけどさ、木山君は木山君だし。俺の知ってる木山君は怖くなんてないよ」
「森崎さんっ、ありがとうございます…っ」
木山君が眉を下げると泣きそうな顔で笑った。
喜一の時も思ったけど、人間じゃないと知っても別に怖いとかは思わない。
妖怪のことは全くわからないけど、こうして喋っていると俺達と何も違わない気がするから。
それに。先に喜一のことがあるから、妖怪と聞いても耐性ができているのかもしれない。