欲しいものは1つだけ
□第6話
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「んぅー…」
うぅ…なんか暑い…。
もっと寝ていたいのに寝苦しくて目が覚めてきた。
なんだか暑くて無意識にシーツの冷たい部分を手の平で探す。
あれ…。
寝返りをしようとしたのにまるで体が固定されているかのように動けないことに気がついた。
「んー…?」
うっすらと目を開けて自分の体を見ると誰かの2本の腕が後ろから自分の腰に巻きつけられているのがわかった。
「ひっ…、なっ、何っ?」
ありえない光景に一瞬にして目が覚めた。思わず血の気が引いて軽くパニックになりそうになる。
い、いや、ちょっと待てよ。落ち着け。
昨日は確か酔っ払いの喜一を家に泊めたんだったよな。
喜一をベッドに寝かせて、俺は最後は電気を消して床で寝たはずだ。それはちゃんと覚えてる。
でも今俺が寝てるのはいつもの自分のベッドで…。
ということはこの腕はもしかしなくても…?
なんとか頭だけを動かして後ろを向くと、俺の後頭部に埋まるようにくっついている獣耳のついた頭が見えた。
「…っ、き…っ」
やっぱり喜一…!でもなんで…?
なんなんだよ、この状況は…っ。
頭が混乱してきた。確かに俺は床で寝ていたはずなのに。
…っ。
背中に密着した喜一の息づかいや体温を感じて変にドキドキするし。
と、とりあえずベッドから出よう。
俺の腰に巻きつけられた喜一の腕をそっと引き剥がそうとすると。
「んー…、駄目っ」
ギュッと喜一の腕の力が強まった。
「…っ、喜一、起きてんの?」
「ふわぁ…。今起きた。おはよぉ、和真」
喜一が寝ぼけたような声でそう言うと、俺の後頭部にスリスリとすり寄ってきた。
「おはよぉ、じゃないよっ。
な、なんで俺がベッドにいるの?」
「…ふっ。やだな自分からベッドに入ってきたくせに」
「俺から?嘘だっ、そんなことしないよ」
寝ぼけてベッドに潜り込んでしまったというのか?そんな馬鹿な…。
あぁ、ますます頭が混乱してくる。
「ははっ、嘘だよ。夜中に俺が運んだの。一緒に寝ようって言ったのに和真が床で寝てるから」
「…っ、なんでそんなことをっ。もう、信じられないっ」
段々と頭が冴えてきてこの状況が急激に恥ずかしくなってきた。
「と、とにかく離してよ。もう起きるから」
じたばたと体を動かすがビクともしない。後ろから喜一に抱きしめられて自分の体がすっぽり収まってしまっているのが悔しい。
「やだよ。もうちょっとこうしてようよー」
「えぇー…」
わけがわからないよ。
でも喜一の甘えたような声に、強く拒否できなくなってしまう自分が情けない。
「はぁ…ところで酔いは醒めたの?」
仕方がないと諦めた俺はそのままの姿勢で話しかける。
「うん、大丈夫。頭はちょっと痛いけどな」
「そっか。もう飲みすぎちゃ駄目だからね。
…ところで酔ってる時のことさ…その、全部覚えてたりするの?」
抱きついてきたこととか、俺に好きだと言ったこと。
「んー、ふふ。さぁどうかな」
「なんだよ、それ…」
顔が見られてなくてよかった。
ちょっと残念な顔してるかもしれないから。
残念…か。一体何が残念だというのか。自分でもよくわからないけど。
「はぁ…」
「なになに、和真どうしたの」
ため息をつくと喜一が後ろから顔を覗きこんできた。
見られないようにシーツに顔を埋める。
「…別に。喜一の酔っ払いぶりを思い出して呆れてただけだよ」
「えーっ、そんなぁ」
別に何も覚えていないならそれでいい。その方がいい。
喜一の何気ない一言が嬉しかっただなんて絶対に知られたくない。