欲しいものは1つだけ

□第3話
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あの日。講義室で“友達”宣言をされてから約一週間。
あれから喜一は俺を見つけると近寄ってくるようになってしまった。

最初の頃は喜一と喋るのは緊張したけど、大分慣れてきたぐらいだ。

ていうか俺は目立ちたくなんてないのに、周りの生徒達にも喜一の友達として知られてしまってかなり戸惑っている。

どうやったら喜一と友達になれるのか、とか聞かれたりするけどそんなのわかんないし…。
そもそもほんとに俺達は友達なのかどうか…。

そんな俺の思いをよそに。

「なんでここにいるんだよ」
「そんなの。和真と一緒にいたいからに決まってるだろ」

喜一は今も俺の隣でニコニコと座っていたりする。

「あのさ、そんなに見られたら食べづらいんだけど…」
「まぁまぁ、俺のことは気にせず食べろよ」

気にせず食べろって、無理でしょ。

そう、今は昼飯時。

今日は自分で弁当を作ってきていた。
亮太がいないから空いていた講義室の後ろの方で食べていたんだけと、何故か喜一に見つかってしまって今に至る…。

「はぁ…喜一はご飯食べたの?」

諦めにも似たため息が出て箸を持つ手を止めた。

「うん、早めに食べちゃったから大丈夫」
「…そう」

なんで俺のとこなんかに来るんだろうか。喜一は他に友達たくさんいるのに。
しかもじっと見てくるから弁当が食べにくいよ。

「…いつもの友達のとこにいなくていいの?」
「ん、別にいいよ。
って、もう。俺のことは気にすんなってば。俺が和真といたいからいるだけだし」

うーん、この笑顔からは本気か嘘かがわからない。

「それに、あいつらいい奴らなんだけど臭いんだよな」
「え…臭い?何だそれ…」
「タバコとか香水とか。俺鼻がいいから実は結構キツくて」
「な、なるほど」

喜一が眉をひそめて鼻を摘まむ仕草をする。
妖狐だからか?鼻がよすぎるのも大変なんだな。

目の前の獣耳にも少しは慣れてきたけど、妖狐ということがいまいちピンとこない。
だって獣耳以外は普通なんだもんな。

そんなことを思いながら喜一の顔をまじまじと見つめると。

「ん、何?そんなに見られたら照れるんだけど」
「いや、別に…、」
「あっ、大丈夫だよ。和真はいい匂いだから」
「っわ、」

喜一が隣から俺の首もとに顔を近づけてくるから軽く身を引く。

「も、もう。近いからっ」
「いーじゃん。俺和真の匂いが好きなんだから」
「俺の匂い、…ってただ単にタバコとか香水の匂いがしないからじゃないの?俺じゃなくったって、そんな人他にもたくさんいるのに…、」
「違うって。和真がいいんだってば」
「えぇー…。なんだよそれ」

喜一が長い指をすっと俺の髪に絡めると、毛束をくるくると弄ぶ。

「ちょ、ちょっと…」
「和真の髪は柔らかくて気持ちいいよな」

またか…。

たまにこうやって急に触ってくるからちょっとドキドキしてしまう。喜一はきっと何気なくそうしてるんだろうけど、俺は人に触られることに慣れていないから。

…あ。そういえば。喜一に聞きたかったことを思い出した。
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