欲しいものは1つだけ

□第2話
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「…さん、森崎さんってば」
「あっ、え…何?」
「大丈夫ですか?なんか今日は様子が変ですけど…。お客さん少ない間にお先に休憩どうぞ」

いけないいけない。今はコンビニのバイト中だった。

「ごめん。ちょっと考えごとしてた」
「考えごと、ですか?ちょっと疲れてるんじゃないですか?」
「いや、大丈夫だよ。ありがとう」

実は今日の出来事を思い出してボーッとしてた。気にしないようにしようと思ってもやっぱり衝撃的すぎて…。

駄目だよな、バイト中なのに。頭をふるふるっと振って気持ちを切り替えようとする。

「ほんとに大丈夫ですかねー…」

同じシフトに入っている木山君が心配そうに俺を見ている。
彼は偶然にも同じ大学の1年生だった。見た目は爽やかなイケメンだ。
よく同じシフトになるから、バイト仲間の中では一番親しいと思う。

「はは、大丈夫だって。ありがと。でもお言葉に甘えて先に休憩もらおうかな」
「はい、そうして下さい」

ふと見上げた木山君がニコッと笑う。もちろん獣耳なんてない。

うーん、やっぱり喜一だけか。

「も、森崎さん…?あの…」

じっと見つめ過ぎたせいか、木山君の頬が赤らんでいる。

「あ、ごめんごめん。じゃ、休憩入ります。何かあったら呼んでね」
「は、はい」

そう言って奥の事務所に入った。

はぁ…。気にしないようにしなきゃいけないのに。
俺が気にしてたら喜一が不安になるに決まってる。

それにしても喜一のあの狐の耳…。記憶の中で何かが引っかかる気もするけど。でもそれが何かはわからない。

ふと鞄の中の携帯を確認すると、父さんからメールがきていた。

『全然帰ってこないけど元気か?お金は大丈夫か?』

いつも同じ内容だ。

元気にやっていることと、お金も大丈夫なことを書いて返信した。
まぁ俺だっていつも同じ内容か。

俺が丁度小学校に上がる頃に両親が離婚して、俺と妹は父さんに育てられた。

俺は高校を出たら働くつもりだったけど、父さんからは大学に入ることを強くすすめられて。
家を出られるならどちらでもよかった。

大学に入ってからは一人暮らしだ。父さんは金銭的に援助すると言うけど、なるべく負担になりたくなくて奨学金とバイトでなんとか頑張っている。
俺なんかよりも妹にお金を使ってあげてほしい。

非現実的なことに戸惑ってはいられない。俺の現実は勉強とバイトなんだから。

「しっかりしなきゃな…」

自分に言い聞かせるようにそう呟いた。
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