欲しいものは1つだけ
□第4話
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あぁどうしよう…。
昨日喜一に説教じみたことを言ってしまったことを俺は早速後悔していた。
今思うとあんなこと言うなんて自分でも信じられない。人の恋愛事情になんて口を出すことじゃないのに…。
「森崎さん大丈夫ですか?さっきからため息ばかりですけど。最近ほんとなんか変ですよー。心配だなぁ…」
「あ、うん。大丈夫だよ、ありがとう」
今日もいつものコンビニのバイトだ。
あんまり自覚は無かったけどどうやら俺はため息ばかりついていたらしい。
隣にいる木山君が心配そうに俺を覗きこんでいる。
「お客さんがいないからって気抜いてたら駄目だよな。ごめんね」
「いや、それは全然いいんですけど」
俺が謝ると木山君が慌てたように手を振った。
はぁ…でもとりあえず今日が土曜日だから講義が無くてよかった。大学で喜一に会わなくて済むから。
そんなことを思っていると。
「あ、そういえば。森崎さん、九重さんと友達になったんですね」
「…え!」
な、なんで木山君から喜一の名前が出てくるんだ。
しかも丁度喜一のこと考えてたからちょっと動揺してしまった。
「木山君、学年が違うのに喜一…九重君のこと知ってるの?ど、どうして俺が友達になったこととか…、」
「そりゃあ知ってますよ。九重さんはかっこよくて有名ですしね。
女子なんかはちょっとしたことにも騒ぐから、大学の友達連中の間でも話題になってましたよ。あの九重さんに新しい友達ができたみたいだ、って」
わー…マジか。
他の学年の生徒まで知っているなんてさすが喜一だな。まるで芸能人みたいだ。
でもちょっと複雑な気持ちだ。木山君は優しいから言わないだけだろうけど、きっと俺みたいな地味な奴が喜一の友達になったから皆の話題に上ったんだろうな。
「まぁ俺の場合は森崎さんのことならなんでも知っておきたいってゆうか…」
「え?何か言った?」
「あっ、いやなんでもないですっ。それはそうと、何か悩み事があるなら俺でよかったらいつでも聞きますから」
「…うん。ありがとう。今は大丈夫だから、またその時がきたらよろしくね」
俺が笑いかけると木山君もホッとしたように笑った。
情けないよな、年下の木山君に心配かけちゃうなんて。
でもなんだか元気が出てきた。
今ここでこんな風に考えてても仕方がないよな。もし今度喜一に会ったらその時に謝ろう。うん。
「そうそう、森崎さんはもうバイト終わる時間ですよね。
ロッカーの所にダンボール置いてあるんでよかったら持って帰って下さい」
「え…?ダンボール?」
「はい。婆ちゃんから野菜送ってもらったんですけど、量が多すぎたんでお裾分けです。すみません、ちょっと重いですけど」
「っえ、野菜?いいのっ?」
野菜!貧乏学生の俺には嬉しすぎるものだった。
「って、すごく嬉しいけど俺が貰っちゃってもいいのかな」
喜んでしまってから気づいたが、他のバイト仲間にも一人暮らしの子はいるのに俺が貰っていってもいいのだろうか。
「もちろんですよ!森崎さんのために持ってきたんですから」
「そ、そうなの?」
「どうぞ遠慮せずに貰って下さい!食べてもらえたら婆ちゃんも喜びますし」
俺が申し訳なさそうにしたからか、木山君が焦っている。
遠慮したら逆に失礼だよな。
「うん、わかった。じゃあ遠慮なく貰っていくね。ほんとにありがとう」
「いえいえっ。どういたしまして、です」
俺がお礼を言うと木山君が嬉しそうに笑った。
木山君は優しいな。きっと俺にだけじゃなくて皆にも優しいのだろう。
俺も木山君ぐらい明るくて優しかったら人生も何か違ってたのかもしれないな。
明るく笑う木山君を見て、そんなどうにもならないことをぼんやりと思った。