欲しいものは1つだけ
□第1話
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ー急がなくちゃ。
先生に聞きたいことがあって、講義の後に話してたらちょっと遅くなってしまった。
携帯のディスプレイで時間を確認すると、食堂への道のりを小走りに急ぐ。
「っあ、すみません」
角を曲がったところで誰かにぶつかりそうになってしまったから慌てて通路の端に避けた。
俺は森崎和真。大学2年生だ。
早いもので大学生生活ももう2年目。
少しは成長しているのだろうか。
見た目に関してなら否である。
周りの同じ学年の生徒達は皆すっかり大学生らしくなって、お洒落で大人っぽくなっている。
それに対して俺はというと。
貧相な体型だし、目にかかる少し長めの黒髪。流行りの服にも興味はなくて、地味としか言いようがない。
うーん、なんか浮いてるんじゃないかと思う。
まぁ今さら自分を変えることもできないし、変えるつもりもないから仕方ないんだけど…。
そんなことを思いながらまた小走りになる。
でもこんな俺にも幸い友達と呼べる奴がいて、今待ち合わせの食堂に向かっているところだった。
「あっ、和真ー。こっちな」
食堂に着くとその友達が俺を見つけてそこから手を振る。
わ、恥ずかしいから大きな声で呼ぶのはやめてほしい…。
「亮太ごめんっ、遅くなっちゃった」
そそくさとそいつのいるテーブルに近づく。
「いいよ、全然大丈夫」
大学に入ってできた友達。三谷亮太だ。
他にも顔を合わせれば喋る奴もいるけど、ちゃんと友達と呼べるのは亮太ぐらいじゃないかな。
1年生の時にゼミが一緒になって、それから仲良くなった。
亮太はサークルにも入ってて、他にも友達がたくさんいるのに、こうして他に友達のいない俺を気にかけてくれる。明るいしすごくいい奴だ。
「悪い、腹減って死にそうだったから先食ってたわ」
亮太の前には食べかけの定食が置いてあった。
「全然いいよ。俺が遅れたんだし。じゃ、俺も何か買ってくるね」
「うん」
手に持っていた荷物をテーブルの上に置いて、財布だけ持って食券を買いに向かった。
俺もお腹空いたなー。何食べようかな。
そんなことを思いながら歩いていると券売機の前に俺が苦手とする派手な見た目のグループがいたから自然と歩みが遅くなる。
わ、あの人達苦手なんだよな。
見る感じ食券を買うんじゃなくてただ喋ってるだけっぽいし…。
早く食券を買ってしまいたいのに、騒いでいるから後ろにいる俺になんて気がつかない。
はぁ…。のいて下さい、なんて言いにくいし。
それに、そのグループの中には俺が気になってる奴がいた。
あ、気になってるって言っても別に好きだとかって意味では全く無い。
「…」
そっとその後ろ姿を見つめる。
俺が気になってるのはこの…。
「あっ、ごめんねー。食券買う?どーぞ。ほら、お前らものけよ」
「…っ。あ、すみません」
そのまさに俺が気になってる奴が俺に気づいたようで、くるりと振り返って道を開けてくれた。
一際目立つ金髪に近い明るい髪色に、恐ろしく整った顔。周りには男女問わずいつも誰かいる。
同じ2年生で学部も一緒だけど喋ったことなんてなくて。
…まぁ派手だけどたぶんいい人なんだと思う。
ていうかヤバいな。まじまじと後ろ姿を見ていたのがバレなかっただろうか。すかさず視線をそらしたからたぶん大丈夫だと思うけど。
「えっと、ありがとうございます」
そう言って間を通してもらった。
「いーえ」
俺がペコッとすると歯を見せてニコッと笑った。…イケメンだなぁ。
俺が通り過ぎるともうこっちなど気にしていなくて、他の誰かと喋っていた。
その後ろ姿をもう一度盗み見る。
って、駄目駄目。気にしないようにしなきゃ。“あれ”のことは。
そうして食券を買った俺は定食を手に入れて亮太のいるテーブルへと戻って行った。