隣の席は

□第7話(完)
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教室の前の廊下に突っ立っている俺の横を、何人ものクラスメイトが通り過ぎていく。

早く教室に入らなきゃと思うのに足がなかなか動かない。

今日こそ。今日こそはちゃんと言うんだ。

なんて、昨日も同じことを思ったんだけどね。
昨日だけじゃない。その前の日もその前も同じことを思った。
“今日こそは”って…。

「はぁ…」

教室のドアの近くから中を覗く。
俺の視線の先には雨宮の横顔。
もう見慣れているはずなのに、いつだって俺の胸を焦がす。

やっぱりかっこいいなぁ…。

あの日俺が待っててと言ってから何日経っただろうか。
俺と雨宮は表面上は変わりなく過ごしていた。あくまでも表面上は、だけど。

いつまでも廊下にいるわけにはいかない俺はようやく自分の席までやって来た。

「あ、おはよう榎木」
「おっ、おはようっ」

雨宮が俺に気づいて、ニコッと笑った。

それだけでドキドキした。俺は周りに感づかれないように平静を保つだけでいっぱいいっぱいだ。

うぅ、やっぱり今日も無理かも…。

俺は自分の席に座ると、自分の情けなさにがっかりした。

だって…こんなに緊張しちゃってて、今日もまだ言えそうにない気がしたから。雨宮のことが好きだって。

雨宮はそんな俺を知ってか知らずか、急かしたり、何も聞いてくることはない。
きっとちゃんと俺の気持ちに整理がつくまで律儀に待ってくれているんだろう。ほんとに優しい。

雨宮も不安だと思うから、早く好きだと伝えてやりたい。ほんとは俺だってそう思ってるんだけどな…。

そんなことを思っていると、いつかの女子達がこっちに近づいてきて、雨宮に声をかけた。

「おはよー、雨宮君」
「…おはよう」

雨宮が他の奴らに対して必要以上に冷たくするのを俺が嫌がるから、雨宮は前のように話しかけられても無視をしたりすることは無くなった。
素っ気ないけどクラスの奴らとも言葉を交わすようになったんだ。

そう、雨宮はほんとは優しいから。今は俺だけに優しいのかもしれないけど、いつか皆にもそのことがわかったら、雨宮にはきっと友達がたくさんできる。

…でも。その分今よりもっとモテるだろう。
その時になっても俺は雨宮の隣にいてもいいのかな。雨宮は違う誰かを好きになったりしないだろうか。そう思うと胸が苦しい。
信じてと言われているのに…。

“俺なんかが”

また俺の弱い駄目な部分が頭を出してきそうで、気持ちが揺らぎそうになるのを必死で押しとどめる。

駄目だ、後ろ向きになっちゃ。もう自分の気持ちに嘘はつかないって決めたんだから…。

「榎木?どうした?」
「あっ、ううん、なんでもないよ」

様子のおかしい俺を、雨宮が不安そうに見てくる。俺を心配した優しい瞳。

…。この優しい眼差しを独り占めできたらいいのに…。

って、なんてこと考えてるんだ、俺はっ。

授業のチャイムが鳴ったから、顔が熱いのをごまかすように教科書を開いて下を向いた。

ほんとは今すぐにだって雨宮に好きだと言ってしまいたい。
好きだと気づいてからは気持ちは溢れるばかりで。

雨宮が俺の気持ちを受け止めてくれることはわかってる。
でも今俺には少し不安なことがあった。

ー昼休み

「ごちそうさま。次移動教室だっけ。教室戻ろうか」
「う、うん」

最近雨宮がなんかおかしい。
中庭で2人で弁当を食べ終わると、すぐに教室に帰ろうとするようになった気がするのだ。

2人でいるのが嫌なの…?今まではこんなことはなかったのに。
それに何より、今まであんなにベタベタ俺に触っていたのに俺に触れてこなくなった。

会話は普通にするし、あからさまに避けられているわけではない。
でも雨宮のそんな態度にどうしようもなく不安になってしまう。
それもあってまだ好きだと言えないでいるんだ。

…俺があの時ちゃんと好きだって言わなかったから?ウジウジして待たせてるから嫌になった?

俺は…雨宮が待つって言ってくれた言葉を信じてる。
でも、それでも、ジワジワと不安がにじりよる。

…人を好きになるって幸せなことだと思ってたけど、こんなにも不安になるんだなんて。
相手の言葉や態度1つ1つでこんなにも心が乱されるなんて。

雨宮はずっとこんな気持ちだったんだろうか…。
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