隣の席は

□第5話
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雨宮の家で雨宮と2人きり。
静かな部屋には時計の音だけが響いていた。

逃げないで話しを聞いてほしいと俺に言った雨宮は、俺の返事をじっと待っていた。

俺はコクリと唾を飲むと、ゆっくりと頷いた。

「…わ、わかった。雨宮の気持ち、聞くよ」

もうこうなったら曖昧にはできない。ほんとは逃げてしまいたいし、心臓が破裂しそうなほど緊張している。
それでも俺は覚悟を決めると、雨宮の瞳を真っ直ぐに見た。

「ありがとう、榎木」

雨宮はそんな俺の様子に、安心したように笑うが、その手元が震えているのを俺は見逃さなかった。

…雨宮も怖いんだ。ほんとは逃げ出したいぐらいに。
それでもこうしてちゃんと伝えてくれようとしてるんだからちゃんと聞かなくちゃ。

俺はキュッと唇を噛みしめると、雨宮が話し出すのを待った。

「…何から伝えたらいいかな。
そうだ、これは最初に言っておかなきゃいけないね。
気持ち悪いかもしれないけど、俺…ゲイってやつでさ、」
「そんなっ、気持ち悪くなんかない。雨宮は雨宮だよ…っ」

静かに聞こうと思っていたのに思わず声が出てしまった。
だって雨宮は気持ち悪くなんかない。

「…っ、ありがとう。
はは、榎木のそうゆう優しいとこ、ほんとに好きだよ」

雨宮は目を見開いたかと思うと、その目を細めて愛おしそうに俺を見た。

「う…、どうも…」

その視線が恥ずかしくて、俺は熱くなった顔を隠すように俯いた。

「その顔だってほんとに可愛い」
「…!」

可愛くないからっ。ただの地味な平凡男だからっ。

可愛くないのに可愛いだなんて言われて、嬉しいはずなんて無いのに益々顔が熱くなる。

「ふふ。話しを続けるね?」
「ど、どうぞ…っ」
「俺さ、物心つく頃には気になるのは男だけだって気づいたんだ。
昔一度だけ気になっていた子に相談したことがあったんだけど、気持ち悪いって言われて絶望したんだ。
それからはもう誰も好きになることはなかった。ううん、好きにならないように努力した」
「…」

俺は俯きながら雨宮の静かな声に耳を傾ける。

「誰かを好きになることを諦めて、自分を偽るのも疲れ果てて、俺のこと誰も知らないこの高校で地味に静かに過ごそうと思ってたんだ」

…そうだったんだ…。

「でもね、1年の時に榎木に出会って…どうしようもなく好きになってしまった。自分を誤魔化すことなんてできないぐらいに」
「…っ」
「ごめん。でも本気なんだ。こんなに人を好きになったことないんだ。
お願いだから好きでいさせて欲しい。嫌だろうけど、そばにいさせてほしいんだ。もし叶うなら友達以上の関係になりたい。駄目、かな…?」

俺は俯いているから雨宮の表情はわからないが、雨宮の声と雰囲気から、雨宮が本気の思いをぶつけてくれたんだとわかる。

なんでこんな地味な俺を、とか色々気になることはあるけど…。でも俺も何か言わなくちゃと必死で頭を働かせた。

「あ、ありがとう雨宮…。俺なんかのことそんなに好きになってくれて素直にすごく嬉しいよ。ほんとに」
「!じゃあ…」
「でっ、でも俺は雨宮のことは、友達だとしか思ってなくて…」
「…っ」

できれば雨宮を傷つけたくなんかない。でも嘘をついたり期待させるようなことは言ってはいけないから。

「雨宮と一緒にいるのは楽しいし、すごく落ち着くよ。雨宮のこと憧れてたんだもん。雨宮のことはもちろん好きだ。
でも…その、恋愛的に好きになれるかどうかは、わからないよ。
だから、その、気持ちはすごく嬉しいんだけど…ごめん」

拳を握りしめてギュッと目を瞑る。

雨宮の傷ついた顔なんて見たくない。雨宮が傷つかない方法は何か無いの?

雨宮から反応が無くて、恐る恐る目を開けるが、顔を上げて雨宮の顔を見ることはできなくて自分の手元を見つめた。

「そ、そうだ。友達としては…いられないの?俺は友達として一緒にいたいよ」
「ごめん。友達として、なんて無理だよ。俺は榎木のことが好きなんだよ?もうそうゆう目でしか見られないのに」
「…っ」

そうゆう目って…っ。

「じゃあ、今は友達以上になれなくても、このままそばにいさせてよ」
「このまま…?」
「うん。友達に戻る気は無いけど、榎木のそばにいたい。諦めることなんてできない。
榎木のことを好きなままそばにいたいよ」

そ、それってどうゆうこと…?
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