隣の席は

□第1話
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「おはよう良介」
「あっ、おはよう寛之」

教室の前で友達に声をかけられて朝の挨拶を交わす。その日もいつもと変わらない朝だった。
いつもと変わらない1日の始まり。

でも今日は少しだけ違う。

「なぁ寛之、席替えするって言ってたのって今日だったったよね?」
「あっ、そうだっけ。うん、今日だった」

寛之はすっかり忘れていたのか、今まさに思い出したと言うようなような顔をした。

「席替えってなんかドキドキするよな。やっぱいつもみたいにクジかなー?いい場所とれるといいんだけど」
「うん。できれば窓際の席をゲットしたいよな。なんて言ったって居眠りしやすいし。
まぁあとは隣が誰になるかだけど…」

教室に入りながらそんな会話を交わした。

俺は榎木良介、高校2年生。黒目黒髪で身長は168センチぐらい。帰宅部で趣味は特に無い。
張り切って自己紹介したいところだが特筆するようなこともない、地味で平凡な男だ。

俺の隣で喋っているのは、山本寛之。高校に入ってから仲良くなった友達だ。

あー、それにしても席替えかぁ…。誰と隣になるのかな。
昔から俺には人見知りがあって、悲しいことに2年生にもなって友達と呼べる奴は寛之しかいない。

でもそんな俺とは違って、寛之の方はイケメンだし友達も多くて、しかも彼女までいる。スポーツも万能で、部活のバスケでも頼られている存在のようだ。まさにパーフェクト。

なんで寛之みたいな奴が俺なんかと友達なのかと言うと、1年の始めの頃に寛之の方から積極的に話しかけてくれて、意外にも気が合うことがわかって仲良くなったのだ。俺が自然体で喋れる唯一の友達だ。気を使わなくていいし、一緒にいると楽しい。

2年生になっても運良く寛之と同じクラスになれたことには歓喜したものだ。

…しかしこれってどうなんだろう。このままでいいのかな。
寛之がいなければ他に友達のいない俺は、ただの地味なぼっちだ。平凡のカテゴリーにすら入れないんじゃないだろうか…。

とゆうことで、実は俺は今日の席替えで隣になった奴と仲良くなって、友だちを増やそうと密かに目論んでいた。
今まで寛之に頼りすぎていたんだ。3年生になって寛之が一緒のクラスじゃなくなったら、完全に一人ぼっちになる。俺だって自分から友達作りを頑張らなくては。
だから手始めにまずは隣の席の奴と友達になれるように頑張りたい。

いつも通りなら席替えはたぶん放課後だよな。
いつもは憂鬱な席替えも、目的があると楽しみになる。

あっ、隣が女の子だったらどうしよう。もしかしたら女の子の友達が初めてできるかも…?

「おい良介。良介ってば。
お前さっきからなにニヤニヤしてんの。キモイぞー」
「!」

つい妄想の世界に入り込んでいた俺を、寛之が肘で小突く。

キモイだなんてひどいっ。

思わず文句を言ってやろうかとするが、はた、と思いとどまる。

いやいや、待てよ。俺はこうやってキモイだなんだと気軽に言い合える友達を増やすんだ。

そう思ったらキモイという言葉もなんだか特別なものな気がして。

「ふふふっ、ありがとう、寛之」
「!?」

俺が満面の笑みでお礼を言うと、寛之は変なものでも見たかのような顔で引いてしまった。
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