欲しいものは1つだけ

□第9話
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「ごっ、ごめんっ!嘘ついたりして」
「っわ、びっくりしたっ。おい、和真」

俺はとにかく謝らなきゃ、と思ってガバッと頭を下げた。
俺の大きな声に喜一が驚いたようた。

「ほんとは今日の朝ちゃんと喜一にメールしようと思ってたんだ。でも嘘ついちゃったからどうしようと思って…っ。
それで色々考えてたら結局メールできなくて。ごめんっ」
「いいって。別に怒ってないから顔上げろよ」
「で、でも…、わっ」

顔を上げられずにいると、下げていた頭をわしゃわしゃと撫でられた。

「喜一…」

くしゃくしゃになった髪の毛はそのままで顔を上げる。

嘘ついたこと怒ってないのかな…。

「だって和真が嘘ついたのは、俺に会うのが気まずかったからだろ?」
「うっ…、」

それもわかってたんだ。
確信をつかれてドキッとした。

「それってそもそも俺のせいだし、和真が謝ることはねーよ。
まぁ怒ってはないけどちょっとショックだったけどな」
「…っ。そうだよね、やっぱりごめん」
「あー、もういいってば」

喜一を傷つけちゃってたなんて。嘘なんかつかなければよかった。

「まぁほら、結局和真に会いたくてこうして来ちゃったわけだし。俺の方こそ謝らなきゃな」
「いや、大丈夫だよ。その、ありがとう。会いにきてくれて」

恥ずかしいし、緊張するけど。
喜一に会えたのはちょっと嬉しかった。いや、ちょっとじゃないな。かなり嬉しいや…。

ちゃんと正面から顔を見たくて、おずおずと喜一を見上げた。

「…っ、何その上目づかい。めちゃくちゃ可愛いんですけどー」
「上目…?あのなー、喜一の方が背が高いんだからそうなるのは当たり前だろ」
「はは、まぁそうなんだけどさぁ」

…よかった。

喜一とまともに喋れるか心配してたんだけど、思ってたより普通に話せてる自分に内心密かにホッとした。

「まぁそれはともかく。今からは時間あんの?」
「あ…うん。大丈夫だよ。
それじゃとりあえず家入る?ここで喋ってるのもなんだし」

なんとか明るく笑ってそう言うと、喜一の横を通って家のドアの前に立つ。
 
「俺面白そうなDVD借りてきたんだ。よかったら一緒に見ようよ」

そう言って鍵を開けた時、喜一に後ろから腕を引かれた。

「っわわ、何?」
「ん、ちょい待って」

俺の腕を掴んだまま喜一が首筋辺りに顔を近づけた。急に近くに感じる喜一にドキッとする。

「なっ、何っ、どうしたの?」
「…」

すぐに喜一の顔は離れたが、どうやら匂いを嗅かがれていたようだ。
振り返って後ろに立つ喜一を仰ぎ見ると、不機嫌そうに顔をしかめていた。

どうしたんだ、いきなり。さっきまでは普通だったのに。

「喜一?どうしたんだよ」
「いや…別になんでもねーけど」
「…?」

喜一の声が低い。俺の腕を掴んだ手に一瞬力が込もるが、パッと離れた。

「と、とりあえず入ろっか」
「…あぁ」

家のドアを開けて喜一に先に入ってもらう。
次に俺も中へ入ろうとするが。

「…う、」

家の中に入ってしまえば喜一と2人きりだということを今更思い出してしまって足が止まった。

嫌でもキスされた時を思い出して意識してしまうし、ほんとは2人きりなんてやっぱり気まずいけど。
でも逃げてはいられないって決めたんだから。

「ふぅ…、よし」

喜一の後ろ姿を見つめながらそっと深呼吸すると俺も家の中へと入った。
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