欲しいものは1つだけ
□第8話
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ー次の日。
うー、やっぱり無理だっ。
俺は携帯を握りしめてベッドでうつぶせに転がっていた。その携帯にはメールの文章作成画面が開かれている。しかし何も書かれていないままだ。
もう昼過ぎなのに俺は何をしているんだろう。昨日はあんなに喜一に連絡してみようと思ってたくせに、いざとなると結局メールすらできていなかった。
だってバイトがあるなんて嘘をついちゃったわけだし、もう話しはないとか言われたらと思うとなんだか怖くて。
なんてメールしたらいいのかわからなかったんだ。
はぁ…今日は喜一に連絡するのは諦めよう。
情けないけど、今まで消極的だったからやっぱり急には変われない。
携帯を手放すと仰向けに転がって天井を見つめた。
「どうしよ…出かけようかな…」
いつまでもこうしていても仕方がないし。気持ちを切り替えてまた考えよう。
いつもなら休みの日は家で本を読んだりしてゆっくりすることが多いんだけど、今日は家にいたらこのまま色々と考えてしまいそうだし。
「よしっ」
俺は勢いよくベッドから下りるとようやく動き始めたのだった。
ーーー
…と言っても特に行く宛があるわけでもなくて。
とりあえず駅前までぷらっとやってきて、適当に入ったのはレンタルDVDショップだった。
うーん、久々に何か借りてみようかな。
でも特にこれといった目当てもなく店に入ったから、何を借りようか迷ってぐるぐると店内を見て回っていると…
「あれっ、森崎さんじゃないですか!」
「…えっ?あ、木山君」
なんと木山君に出くわした。
お互いに驚いた顔をしている。
「うわー、偶然ですね。こんなとこで会えるなんて嬉しいです。
そっか、森崎さん今日はバイト休みですもんね」
「うん、そうなんだ。暇だったからなんとなくね。木山君はバイト入ってるんだっけ」
「はい、今日は夕方からです」
木山君の明るくて人懐っこい笑顔はやっぱり見てるとホッとする。
木山君の正体が化狸だと知ってからも、変わらずこうして仲良くしている。むしろもっと仲良くなれた気がして嬉しかった。
あのベンチで話しをした後は何故か木山君の様子が変だったけど、喜一との変な誤解を解いてからはまたいつもの木山君に戻っていた。
「わー、いっぱい借りるんだな。木山君はDVDとかよく見るの?」
木山君の手には5、6枚のDVDがあった。
「はい。映画観るのとか好きで。映画はなかなか観に行けないから、こうやってDVDを借りてるんですよね。ここはよく来てるんですよ」
「へー、そうなんだね。あっ、じゃあオススメとか教えてくれない?久々にDVD借りようと思ったんだけど、何借りようか迷っちゃってさ」
「いいですよっ。俺でよければ。森崎さんはどんなのが好きですか?」
「えっと、そうだなぁ…」
それから木山君に俺の好きそうな作品のDVDを何枚か薦めてもらって、その中から2枚借りた。
「ありがとう。木山君に会えてよかったよ。面白そうなの教えてもらえたし。
今日借りなかった他のオススメはまた今度借りてみるね」
「いえいえっ。お役に立ててよかったです。それに、こんなところで森崎さんと会えて嬉しかったですし」
ニコニコと嬉しそうに笑う木山君と2人並んで店を出た。
「今日は一日時間あるし、帰ったらさっそく観てみるよ」
「はい。またよかったら感想教えて下さいね」
「うん。ほんとありがとうね。それじゃ、俺はここで…」
「あっ、待って下さいっ」
店の前でそれじゃ、と手を振ろうとすると木山君に呼び止められた。