男の子と女の子の話
□ひとつまえのきみ
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口数は、少ない方。
高校に入ってすぐ、本を読んでいる私は、とても「変」な人だと、周りのクラスメイト達は言った。
そんな変な人と話すと、「ネクラ」になるとか。
ばかばかしい…。
本の素晴らしさを知らないなんて、もったいないことだと思う。
きっと話しても分からないから、私は何も言わない。
こうやって、本を読んでいるだけで幸せ。
知らないこと、作られた話、色んなことがこの本の中にある。
私にいろんなことを教えてくれる。
私は本が大好き…。
***
「ねえ、それ、面白いの?」
いつも通り本を読んでいたら、蛍光灯の明かりが少し陰る。
私…?私に話しかけたの?
「ずっと読んでるだろ?それ」
「え……これは…、新しい本……」
昨日まで読んでいた本は読み終わって、新しい本に変えたばかりだ。
「そうなのか!? ぜんっぜん見分けつかないんだけど!何が違うの?中身? あ、そりゃ違う本なんだから中身ちげーよな!」
こっちが答える隙もあたえてくれないで、1人で話し、ひとりで解決している……
「…まぁ…続き、だから…その、違うけど、一緒っていうか…」
「ああ!続編かなにかか! はーお前こんな分厚い本よく読めるな!すげーわ」
それは、この本が面白いから、直ぐ読み進めてしまうの。
そう言おうとしたらチャイムが鳴って目の前の男子生徒は慌てて目の前の椅子に座った。
あれ、この人目の前の人だったんだ…?
クラスメイトに関心が無かったが、さすがに目の前の人まで知らなかったことに自分でびっくりする。
先生が入って来て授業を始めたので、目の前の本をそっとしまった。
***
次の休み時間も、その次も、次の日も目の前の彼は飽きずに話しかけて来た。
「それ面白い?」
「…うん。」
それの繰り返し。
ただ、話しかけられるたびに読書が止まるのでなかなか進まない。
「……ねぇ。君さ…」
「相田!」
「……相田君さ、なんでそんなに話しかけるの…?」
私と話すと…ネクラになるよ。と、続けられない。
そんなことない。それは勝手にクラスメイトの誰かが言い始めたことで、今までの友達でそうなったひとなんて誰も居なかった。
こんなに毎日飽きもせずに話しかけてくる相田君はとっても明るい。
友達とも仲良くしているし、私とは違うじゃない。
「安西ってさ、ずっと本読んでるだろ? どうしてそんなに集中力続くのかなーって! 俺すげー気になっててさ!」
「…?」
「俺いつもさ、本読もうとするんだけど、すげー眠くなんの!授業だってめっちゃくちゃねみーしさー。だから、安西を見習ったら俺も眠くなくなるんじゃないかって思ったんだ!」
目の前で真面目な顔して話すもんだから、つい。笑ってしまった。
「…ふふっ。そんなに頑張らなくても、私は読むことが好きだから、眠くならないよ」
「ええー! じゃあ何も秘訣はないのかー!?」
なんだー、とがっくり肩を落とす相田君をみてまた笑ってしまう。
「相田君の好きなことの本とか読んでみたらどうかな…? 絵や写真が多いものから初めて見たらいいとおもう…」
「あ、ナイスアイディア安西!」
きりよくチャイムが鳴って、また授業が始まる。
気がついたら、目の前の彼との休み時間が楽しくて、次は雑誌にしてみようかな…と考えてしまう。
あれ、彼の好きなものってなんだろう?何も知らない
つい目の前にいるせいで、見つめてしまう。
知りたい、彼のこと。
これから色んなことを話して、私のことも知って欲しい…
先生が入って来て授業を始めたので、目の前の本をそっとしまった。
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恋の始まりって、きっと些細なことから。