参考文献

□相愛性理論
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相愛性理論

あれ?私達って、どっちが先に好きって言ったんだっけ。
好きになったのは私の方が先だったよね。
なんて、ファッション雑誌から目を離したと思ったら、急に突飛なことを聞いてくるソフィー。
あの夏が過ぎて、何度目かの季節が周って、大学に入るために家を出た俺達は同棲している。
ソフィーはまだ、同棲とは言わない。シェアしあってるだけだと反論してくるけど。
でも、俺が母親から譲り受けたエンゲージリングしてるくせに。
学生である俺は公務内容を半減させているため、幼いころから習い事同様にやってきたモデル業でお金を稼いでいる。ソフィーもいくつかバイトをかけもちしながら、生活費と学費を稼いでいて、俺達はなんだかんだ言って、自立心はあったから、以外と今の生活には苦労していない。
ソフィーの作るごはんも美味しいし。
洗濯物を小さなバルコニーに干してきた俺が一息ついて、インスタントコーヒーにお湯をそそいで飲んでいると、ほんと、何の突拍子もなく聞いてくるからびっくりして、拍子に舌を火傷した。
マジでしゃれにならないくらい痛い。
「何?いきなり?えっ、大丈夫??」
ソフィーは、あわてて声をかけた。
いや、問い返したいのは、俺の方なんですけど。
「好きになるのも、告白も、俺の方が早かった。俺は前々からソフィーのこと、知ってたし」
俺はため息をついて、テーブルの上に置くと、ソフィーの向かい側に座った。
「じゃあ、好きを辞めるのもレンからだったりして」
「は?」
「知ってた?どっちかが、好きになったら好きっていう気持ちはストップして、逆に好きをやめたら、好きっていう気持ちは終わりを迎えるらしいよ??でも、終わりばっかで、始まりはどこなんだろう?って、思って。
レンの私との始まりはどこなんだろーって。そして、どこで終わるんだろーって」
「好きに始まりも終わりもあるの?
ソフィーの言いたいことって、良く分からない。」
「いや、分からないも何も・・・私の理論じゃないんだよ。心理学の先生が好きなアーティストさんの詩って言ってもってきたのが、私が大好きで敬愛するDECO*27さんの曲だったの。今まで、ただ、なんとなく聴いてたんだけど、改めて歌詞を見ると、つくづく考えちゃって」
「何の曲?」
「相愛性理論って言う・・・」
本人は至って大真面目に言い訳をしてくるから、なんだと思って聞いて見たら、歌詞の内容らしい。
歌詞を引用してくる先生もどうかと思うけど。
歌詞なんて、作り手がその時に感じたものを詩につづっているだけで、実際のとこ、そんな真面目くさって考える程でもないだろうに。
でも、まあ、ソフィーはそういうお年頃なわけで、恋愛の意味を見出し始めるか始めないかの年で付き合い始めた俺達は、今までの怒涛ぶりから、あまり、そう、当人同志の恋愛について深く考えたことがなかった。
「その歌詞って、どんなものなの?」
ソフィーは、弾かれた様にちょっと待って!と立ち上がり、寝室へ早歩きで入っていき、CDのブックレットを持って戻って来ると、俺の前に座った。
彼女は、女性と桜色がメインの表紙を、丁寧に開き、歌詞ページを見せる。
相愛性理論・・・と英訳された歌詞に俺は目を通す。
例えば、どちらかが好きになったとして、それを終わりと言うなら
始まりはどこでしょうか?
例えば、どちらかが、好きをやめたとして、それを終わりと言うなら
始まりはどこでしょうか?
始まりがどこにもないように
終わりはどこにもありません
想いは誰にも見えないから
このように歌にしてみたのです。

「ソフィー。この歌詞、始まりも終わりもないって言ってんじゃん。」
「だから、私の理論じゃないって。
でも、好きの気持ちにもし始まりと終わりがあるとしたら、レンは、どうするの??」
「その時はその時だろ??でも、好きの気持ちに限度なんて無いんだよ。嫌いだーって、言葉にしても、心の中では、好きでありたい気持ちが残ってるとしたら、俺は、多分、その、好きの気持ちを信じて伝え続けると思う。これから、歳をとって、いつか話せなくなる日が来るとしても、伝えきれないくらいの好きの気持ちを持って、俺はソフィーに接してるんだと思うんだ」
俺は、少しソフィーから視線を外し、コーヒーをすすりながら言葉にした。気恥ずかしいじゃんか。十八の男が、ずっと、彼女に好きを連呼するとか。
「ズルイ。やめてよ、そんな言い方」
は?お前が聞いて来たんじゃんか。文句を言ってやろうと顔を上げると、ソフィーは、顔を手で覆いながら、続けて言った。
「それ以上、言われたら、私、
幸せすぎて死んじゃうから」
彼女の耳は赤くなっていて、その言葉に乗せた彼女の気持ちに触れた瞬間だった。

「てか、これ。片想いの曲だろ??」
沈黙の間に、だまだまと見続けた歌詞。俺は、この歌詞の結論を述べた。じれったいの一言だ。
「え?両想いの曲だよ!」
顔を覆っていたソフィーが、勢い良く手を離したので、俺は、ソフィーの口に不意打ちをかましてやった。
彼女の唇はとても柔らかくて、弾力があった。まあ、洋服に隠れている部分も、柔らかくて、弾力があることを俺は知っているんだけど。
彼女は顔をトマトの様に真赤にして、
「ズルイ!!」
と、叫ぶように言えば顔を覆い、うつむいた。
予想通りの反応に満足した俺は、
「じゃあ、両片思いの曲だ。え、ああ、もう、考えるのめんどいっていうか...」
つまりそういうこと。難しい言い回しは辞めにするよ。
「互いに思いあって、笑顔も泣き顔も見せ合って、好きをいっぱい伝えれば、いつか、一方通行の気持ちが混じり合うようになるって言うことだろ。だから、どっちかが、始めに好きになったとか、そんなの関係ないってことだよ」
ソフィーがやっと口を開いた。
「.....そっか、そうだよね。私あの時のあの、レンのアホ面がもう一度みたい!」
「誰が、アホ面だって」
と、勢いよく、ソフィーの柔かいほっぺをつねった。
「いたた.....だって、告白された時のレンの顔、確かにアホ面だったよ」
あの時は、俺だって、真剣だったんだよ。多分、自分がどんな顔してるなんて気にしてる余裕なんてなかったし。
「て。最初から覚えてるじゃんか」
また、つねる。
「今、思い出したのー」
「5年も前の顔色の記憶なんて、すぐに思い出すわけないだろ」
痛い痛いを連呼するソフィー。
「だって、言って欲しかったんだもん。私達、あれから5年も経つんだよ。レンの今でも私のこと好きかっていう気持ちを聞いて見たかったの。あの時と同じ気持ちかなって。でも、さっきのレンの言葉で安心した。ずっと、好きの気持ちで接してくれるんだって、言葉」
「これからも、ずっと伝えて行くよ。俺が例え死んだとしても、ずっと」
ソフィーは泣き笑いのような笑みを浮かべた。俺は、赤くなった頬を今度は優しく撫でた。
ソフィーは言った。机が邪魔だと。さっきのキスの時もそうだけど、本当はぎゅっとしたうえで、キスをしてもらいたかったらしい。温度を感じたかったと。
俺は要望に応じて、一度ソフィーから手を離すと、ソフィーの座ってる席の横に立った。ソフィーは、立ち上がり、俺に倒れこむように抱きついてきた。俺も彼女の背中に腕を回して抱き締める。そして、俺達はどちらから共なくキスをした。


何度目か分からないけど抱いたあの日、俺はソフィーが本当に俺を望んでいるのか、少し不安になって聞いた。
「本当にいいの?」
「いいよ」
「いいの?俺なんかで」
「いいよ。もっと、好きになって」
僕達、終わらないように。
終わり。

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