短期的観測

□モザイクロール
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アリスである私。
弟や周りはアリスであることを誇り、私より先に学園へと行ってしまった。
私はちがう。
自分のアリス(能力)を誇れない。
私のアリスは炎。
父と同じアリス。
父は言った。
「お前のアリスは世間から見たら、危ぶまれ、忌むべきもの。そうなりたくなければ、自分のアリスを隠しなさい」
そう、私のアリスは危ぶまれ、忌むべきもの。
私はそういう存在。
だから、私は、アリスを隠すの。
嫌われないために。
でも、無理だよ。私だって1人の人間。どんなに上手く隠そうとしても、感情的になれば、アリスなんて制御できない。
こんな私を、父は、駄目な子だと言うのだろうか。
母は同情するのだろうか。
朝だった。寝覚めの悪い朝だった。
私は九月から、弟達の跡を追うように、アリス学園へ編入した。
父は、先生達の間ではとても有名な生徒だったそうだ。
そして母も。
たちまち、私は先生達に一目置かれることになった。
別に優秀でもなんでもないのに。
「樹季!樹季!」
「蜜夏」
蜜夏は弟だ。ちょっと、いや、だいぶ変わった。
「ご飯、覚めるよ」
「えっ?あぁ、ごめん。ごめん。」
「どうしたんだよ。ぼけっとして。らしくない。そんなんじゃ、綺麗になれないぞ!」
「キモいんだけど。朝から...」

「さあて、今日の授業は、特別授業。アリスストーンを作ります」
副担任である、鳴海先生が意気揚々と告げた。
アリスストーン。能力者の形を石にして作りだしたもの。この石は、相性が良ければ、他人の能力が使えるらしい。
「先生!優真君は、アリスストーンの授業、出ないんですか??」
えっ、あいつ出ないの?
「うん。彼はアリスストーン作るのがうまいから。教えることがないんだよ」
「残念」
「交換できると思ったのに〜」
悔しそうな女子を尻目に優真は、蛍太や、健良君や、優君と楽しそうに話している。
出ないのか。
だよね。彼は私とは違って、能力に置いても抜きんでてるし、親の七光りを無駄にしてる私とは、万の差。
私は深くため息をついた。
「どうしたの?樹季」
希が飴をほむほむしながら聞いてくる。
「ううん。どうもしないよ」
私は、にっこり笑った。
飛田先生が、片手で拳を作りながら言った。
「まずは、自分の能力に意識を向けます。そして、集中」
先生が掌をゆっくり開くと、中からは、おはじきよりもずっと大きなサイズの石が出てきた。
綺麗な色だった。
「こんな風にするんですよ。みんなもやってみて」
私達は言われた通りに、両手で祈るようなポーズを取ると、意識をアリスに向け、集中させた。
冷や汗のすでにできた石は赤くて、ビー玉より少し小さめのサイズだった。希はハニーイエローのような色の同じくらいの大きさの石を満足気に見ていた。そして、私の方に目を向けるといたずらっ気に歯を見せて笑った。
「なあなあ、樹季。どんなやつになった?」
肩に覆い被さってきたのは、勿論、亜麻色のウイッグをつけた蜜夏だった。蜜夏のその格好は、小学生だった時のお母さんを彷彿させると、鳴海先生はにこにこしながら言っていた。
「こんなの」
私は手のひらの小さな石を見せた。
「あんたは?」
俺はね〜って、凄くゆるい口調で、手のひらからビー玉サイズの茶色の石を見せた。
「でっか!!いつもいつも思うけど、あんたのその才能は完全にお父さんに似たよね。アリスは無効化だけど」
嫌味たらしく言ってみる。
「樹季のアリスだってお父さんのアリスじゃないか?」
「私は、自分のアリスちゃんと使いこなせてないもん」
ゴニョゴニョと口ごもってしまう。
「過小評価しすぎだって」
「なになに〜?日向双子のアリスストーン。どんな感じに仕上がったの?」
話しを聞きつけたクラスメートがぞろぞろと周りにも集まりだした。
「期待しても何もないよ」
蜜夏が笑って言った。
「って、蜜夏君大きい!!すごい!!」
蜜夏の手の中にあるアリスストーンに気がついた女子の一人が、目を輝かせて高らかに声を上げた。
「そんなことないよ。作った後は力使う気失せちゃうし」
「そうなんだぁ、あ、じゃあ、ねえねえ、日向さんは?日向さん、蜜夏君みたいな大きいアリスストーン作ってるんじゃないの?」
「えっ!!私はそんな対したものできないよ」
「またまた、謙遜しちゃって〜。いいじゃん?見せてよ」
そう言って、クラスメートの一人が私の手に触れようとしたため、とっさに引っ込めた時に、私の手から紅色のアリスストーンが落ちて、床に転がってしまった。
一瞬の間があり、我に返ってひろいあげた時に、クラスメートのがっかりした声が聞こえてきた。
「なーんだ、日向姉は俺達と同じサイズかよ」
「日向先生が有名だし、蜜夏があんなだから、日向姉もてっきり一緒だと思ってたのに」
「そういや、蜜夏君と星階級も違うよね」
「期待して、スッゲー損した気分」
「萎えるわー」
「ちょっと!」
「おい、やめろよ」
騒ぎを聞きつけた蛍太達が集まり、希と蜜夏が止めに入ったと同じくらいに私は手に持った石を椅子の背もたれに投げつけた。
ざわついた雰囲気の教室が投げつけた石の反響音におののいて、静まりかえり、みんなの目線が私に行く。指導してる先生達も私を見た。
「いつ・・・き?」
肩を寄せ合うクラスメートを推しのけ、走って教室を飛び出した。
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