短期的観測

□I think so
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ねえ、思うんだ
君なんていなくても
僕は生きていけるかもしれない

フィリエルとルーンが喧嘩した。
まあ、いつものことなんだけど。
私はというと、夏休みの研究課題を提出した際、私のグループは、先生に高評価を受け、研究発表会の代表に選ばれたため、日夜図書館や、それぞの家に集まり、発表の準備に取り掛かっていた。つかの間の休みである。
なので、リビングに飾ってある観葉植物の水やりに励んでいた。
今年は例年よりも日照りが続いて、葉焼けしたり、枯れたりしたもんだから大変だ。ホワイトが、棚に登って、鉢をひっくり返してしまうのを防ぐため、足で必死に追いやるも、本人は遊んでくれてるのかと勘違いして、爪を立ててくるため、無駄な所業なんだけど。
白のロングの毛並みに覆われた体躯は、まん丸としているため、家族からは、おデブちゃんと言う愛称で呼ばれている。そんな体躯をしているのに、やたら俊敏なため、なんなんだこいつと、私は思っている。
そんな俊敏さに負けず劣らずか、フィリエルが全力で後ろから抱きついてくるのをよけきれずに、
葉っぱと顔面衝突してしまった。
かすった鼻の頭をこすりながら、また、喧嘩したのかと問えば、
「だって、ルーンが悪いのよ」
内容はこうだ。
フィリエルがルーンが気に入って離れようとせず、居着いてしまった私の家の簡易的な天文台で毎度のように、自分の趣味に没頭している。
プラネタリウムがない彼の生きた時代からすればかなり珍しいらしい。
「ルーンはあたしにかまってくれないばかりか、何と言ったと思ってる?今は忙しいんだ!ちょっと騙っててくれないか?…ですって!!
ルーンなんて、一生そこから出てこないで、むしろ、プラネタリウムと結婚すればいいんだわ!」
(プ…プラネタリウムと結婚って…)
駄目駄目、フィリエルは真剣に怒ってるんだ。私は必死で笑いをこらえた。
「ルーンが、天体観測に没頭するなんて今に始まったことじゃないでしょうに。本当、どっかの誰かさんそっくりだよね。まあ、元は一緒だから仕方ないけど」
「ちょっと、元は一緒とか言わないで頂戴。ルーンはルーン、レンはレンなんだから!」
フィリエルの口調からかっかっしてるのがよくわかる。
「それに、レンの方がまだ可愛げがあるじゃない」
霧吹きを落としそうになった。気を取り直して
「似たり寄ったりじゃないかな〜。そんなに、ルーンの性格に怒ってるなら、フィリエルも何かの課題を見つけて研究熱心になってみれば。私は、夏休みの自由研究やってて面白かったよ!」
「ソフィーみたいにはなれないわ。ソフィーの探究心と追求心は盛んすぎるもの」
「そうかな…」
夏休みの自由研究は、最初テーマを決めて、そのためには何をしなくちゃいけないのか…とか、決めるまでは憂鬱だった。植物が好きだけど、育てるのと見る楽しみはあっても、研究しようとまでは至らなくて、そんな時、あの、セラフィールドの天文台の話しが出たのだ。最初は、フィリエルとルーンの手掛かりを探すために研修旅行に行くのが目的で、自由研究は二の次だったけれど、エリシアやデイジー、そして、レンに教えてもらいながらの3.5人で成し遂げた時の達成感は身に染みる思いだった。
「研究って一人でするのもアリだけど、みんなで協力し合いながら、一つのことを突き止めて行くことも大事なんだなーって。グループワークっていうのかな」
「あのルーンに人と協力し合う協調性ってあると思う?」
「あると思う。ヘルメス党の研究者と一緒に居た時やブリギオンのカグウェル侵攻を喰い止めた時だって、生き生きしてた。ルーンは、本当は、みんなで何かをすることになんの抵抗もないのかも知れないよ」
私は、フィリエルだった頃の記憶を思い出したから彼がどんな人だったかを、思い出すこともできた。まあ、嫌な奴だってことは変わりないのだけど。
「やけに肩を持つのね」
「仕方ないけど、私はあなただから。さあ、この話はお終い。課題しよう」
フィリエルはきっと、ルーンは私無しでも生きていけるのかも知れないとか、そんな事を考えているんだと思う。外の世界に出て、研究対象は星だけじゃないと知った彼は、フィリエルの背中に隠れてしまうような幼い男の子じゃないということ。ルーンの生まれ変わりであるレンがそういう感じのタイプの男の子になってしまい、思い出した今、少し寂しいところを感じてしまうけど、こうして出会うことが出来たのは、彼等の願いだったって分かる。
まあ、そのことは置いといて。
さすがにこう何日も、天文台に入ったきりなので、様子を見に行かないわけにはいかない。まあ、フィリエルの言葉からして、元気なのはわかるけど。私は、朝ごはんに焼いたスコーンの残りと、マーガリンとジャム、それから、今朝母さんが作ってくれた、野菜スムージーをマグボトルに流し込み、バスケットの中に入れた。
「ソフィー?」
どこかへ行くの?って言う顔つきで、私を見る。
「うん?あ、ちょっと天文台。本借りに行こうと思って」
「そしたら、ルーンの馬鹿って伝えておいてくれない?」
「あーはいはい。伝えておくから、くれぐれも暴れないように」
フィリエルを宥めた私は、バスケットを持って家を後にした。
お父さんが休みのたびに整理している小綺麗な庭を通って天文台へと足を運ぶ。
三重のオートロック式で、指紋認証と声帯人称と暗証番号までついていて、この一つのいずれかひとつでも間違っていたら扉は開かない。
私は全ての手順をこなして天文台の扉を開けた。
中は吹き抜けで真ん中には最新式のプラネタリウムを搭載している。床はひんやりとして冷たい。そして、窓の光が中まで届いていないから、薄暗い。
ルーンはというと、その床にぺたりと座り込み、備え付けの本棚からありとあらゆる本を引っ張り出しては自分の周囲に置き散らかしている。
その光景を目の当たりにすると、お父さんの本をこんなに散らかして怒るより呆れる。幸いルーンは私に気づいていないのか、文章と格闘していた。
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