薄桜鬼(現代・短編)

□whaw's ??
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昨日は部署内の飲み会だった。
近藤部長、土方課長、山南係長、沖田さん、斎藤さん、藤堂さん、原田さん、永倉さん、島田さん、雪村さんに山崎さん…難しい案件が無事に終わったお祝いに皆が参加したのだ。

私も同じ部署で働き始めて早5年、通常ならば中堅と言いたいところだが、私は未だにまともな仕事ができているとは言い難かった。
『伊賀君、この企画書だが見積もりが誤っている。ごく初歩的なミスだろう、すぐにやり直してくれ。』
『A社への報告書を明日の10時までにまとめてくれ。』
『この予測データについて……』
山崎さんの元について3年が経つが、企画書、報告書が一度で通ったことはないし、元来ののんびりした性格が災いしてスピードも遅いため、残業なしでは締め切りに間に合わせることもできない。

山崎さんは賑やかな人が集まった部署の中でも珍しく無口な人だ。
土方課長の懐刀とも言われるほどの優秀な人で、お客様やライバル企業の下調べなども担う。
山崎さんの掴んだ情報によって、ライバル社を出し抜いて落札した事業も数知れない。
そんな優秀な人の元に、ただの事務員だった私が就くことになってしまったのが3年前だ。
『山崎だ、よろしく頼む。』
簡潔な挨拶を一言交わしてからは、仕事の会話以外交わしたことはない。
常に無表情で、どんなミスをしても怒られたことはない。
けれど、私は山崎さんに声をかけられたり、話しかけるたびにその冷たい瞳が怖くて仕方なかった。
感情の見えない、なのに奥まで見透かされてしまいそうな鋭い眼差しを前にするだけで、頭が白くなってしまうくらいに緊張した。
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