薄桜鬼(現代・オリキャラ)

□壬生警察署 生活安全課11
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「山崎さん…?」

腕の力が緩むことはない。
山崎さんは私をぎゅっと抱きしめたまま動かなかった。
顔を見たいと思うのにまるであの日のように、肩口にぐっと押しつけられるような、包み込まれるような抱擁で、動くことも叶わなかった。

けれど、山崎さんの中にも簡単に口にできない葛藤があるような気がした。

「すまない…せっかくの景色を、俺が隠してしまったな。」

そんな風に笑っても、その瞳は何かを堪えているようだ。

「いえ、十分楽しみました。」

「そうか…よかった。」

そうして私達はお手伝いさんにお礼を言って、そのお寺を後にした。
どちらからともなく手を繋いで、指を絡めて…まるで恋人同士のように寄り添って歩いた。

山崎さんも私もお寺を出てから特に何も言わなかった。
山崎さんと私はかつてあのお店で出逢っていたーー
そして山崎さんは眼鏡と髪の毛で隠している素顔を知っているーー

それはすごく大きなことだけど、それでもまだ核心ではなくて…
あえて、なのかもしれないけれど、山崎さんはそれ以上のことを暴こうとしなかった。
なぜ私にたどり着いたのかも話さなかった。

聞かれても答えることは当然できない。
かと言って、こちらからあれ以上のことを聞く訳にもいかない。

このままでいられたらいいのに…

そんな都合のいい話などないとわかっていたのに、そう願わずにはいられなかった。



「ひとつだけ聞きたいことがあるんだ。」

駐車場まで来たけれど、山崎さんは手を離そうとしなかった。

「…答えられることだったら。」

俯いていまった私の顔に、温かい手が添えられる。

「君に任せる。」

山崎さんが笑うのがわかった。

「それにこれはあくまで俺の個人的な感情と興味による質問なんだが…


その…彼は、本当に君の彼氏なのか?」

前置きを経て聞かれた内容は、予想していたものと全然違った。

「へ…?」

「先日君をマンションに送った時にいた彼だ…と言うよりも、君に彼氏がいるというのは本当なのか?」

ぽかんと山崎さんを見上げてしまった。
酔った挙句におんぶしてもらったまま寝てしまったあの日ーー

「あ…」

そうか、あの日エントランスで私を引き取ったってカッパが言ってたっけ。
彼氏かと山崎さんに聞かれて、そうだって返事したとか何とか……って、

「違っ……」

違う、と簡単に答えてしまえばよかった。
けれどお昼の電話は誰からなのか、という話になってしまう。
その言い訳が咄嗟に浮かばなかったことで、即答できなかった。

「あぁ、そうか……」

そんな私の焦りをみて、山崎さんは納得していた。

「すまない。

そんなつもりはなかったが、否定してしまえば不都合が生じてしまうな。」

「ごめんなさい…」

「君が謝る必要はない。
それに、さっきの反応で……俺としては都合よく解釈させてもらう。」

そう言って、悪戯っぽく微笑んでいた。
その笑顔に、胸が苦しくなった。
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