薄桜鬼(現代・オリキャラ)
□壬生警察署 生活安全課10
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山崎さんの手には、あの日私が残したUSBがあった。
今日ほどこの眼鏡と前髪に感謝した事はない。
僅かな動揺ですらこの人には悟られたくなかったから。
「これが、ですか?」
きょとん、という言葉がぴったりだ。
何のことやら想像もできません、と言外に匂わせる。
大丈夫…こんな場面は何度も練習してきた……何度も乗り切ってきた…
ウソ発見器でさえ欺く訓練を受けてきたことに、今は感謝していた。
山崎さんが私の様子をじっと観察しているのはわかっていた。
だからこそ、落ち着いて…大丈夫…
「あぁそうだ。運良く手に入れたこれには、多くの写真や証拠が入っていた。俺たちはこれを基にして裏取りをしていっただけだ。」
「ふーん…って言うか、山崎さん、私にそんな大事なことを話していいんですか?」
至極当たり前の疑問をぶつける。
「そうだな……過去のものとは言え、部外者に明かすのはよくはないだろう。
だが、」
山崎さんの目に鋭い光が宿った。
食堂の賑やかな喧騒が消えていく。
これは…私たちの駆け引きだ。
「俺は、このUSBの落とし主が身近なところにいるのではないかと思っている。例えば………
そう、俺の目の前に。」
「っ?!」
こんなにストレートに言われるとは思わなかった。
もっと回りくどく言う事も、揺さぶりをかける事もできるのに…なんで…そんなに真剣な目で見つめるんですか…
「山崎さんは、私がそのUSBの持ち主だったと言いたいんですか?」
さも驚いたと言わんばかりに、私はリアクションを取った。
そうするしかなかった…
山崎さんの瞳は揺らぐ事はなくて、むしろ私の反応を予期していたようだった。
私ひとりの事で済むのならば構わない。
だが私の背景にあるものは、間違いなく目の前のこの人を傷つけてしまう。
知るべきではない、知ってはいけない。
「君は、ある特殊部隊の話を聞いたことはあるか?」
お願い……
「特殊部隊、ですか?」
やめて……
「そうだ。実しやかに囁かれているウワサだ。『警察には法規制に囚われず、極秘任務を遂行する部隊が存在している。上層部ですら実態を把握していない、誰が指揮しているのかもわからない。』そんな、特殊部隊…SECRET、通称【S】ー」
「でもウワサなんですよね?」
それ以上……
「そう言われている。都市伝説のようなものだと。だが、俺はかつてその話が真実だと聞いた。」
「そんなの、デタラメじゃないですか?」
言わないで………
すぐにでもその口を塞いでしまいたかった。
やめてくれと叫びたかった。
だけどそんな願いは脆くも崩れていく。
山崎さんは一度だけ瞬きをして、そしてハッキリと私を見据えて告げた。
「伊賀君。
全てのことは今はまだ推測の域を出ない。だが、俺は必ず真実に辿り着いてみせる。そして………
君を、必ず捕まえる。」