b BLEACH

□それがプレゼントでもいいから
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「メリークリスマスーーー!」


パーン!とクラッカーを鳴らしながら入って来た明良に俺は目を丸くして驚くことしか出来なかった。

現世の滞在任務に就いて一ヶ月。面倒な書類の仕事から文句無しで逃げられるのならばと十席の任務を無理やり自分のものにした。義骸に入っての暮らしを助けてくれているのが目の前で両腕を広げているコイツ、真滝明良だ。日番谷先遣隊としてこちらへ来ている時に知り合い、浅野家より(変な服とか着せてこない分)過ごしやすいと感じて今は世話になっている。というよりも、俺がコイツと居たいと思ってしまったからなのだが。もちろん手なんて出していない、気持ちですら伝えていないのだから。彼女に対して特別な感情を抱いていると気づかれれば、もう此処には居られないかもしれない。おいてくれているのは俺が頼み込んだから。それと、彼女の優しさだとわかっている。

火薬の匂いが充満するリビングには、固まった俺と今にも飛び跳ねそうな明良が満面の笑みを浮かべて対峙していた。


「一角テンション低いよー!」

「帰って来て早々うるせーな」

「ねね、見て見て、可愛いでしょ!」


相変わらずマイペースに会話を進める彼女にはもう慣れてしまい、溜息を吐いてみてもそれに動じることなくクルリとその場で回ってフードを被る。珍しく変な服を着ていると思ったが、大きなツノを付けたダボダボの着ぐるみを着た彼女はお世辞でもなく可愛くて仕方がなかった。


「普通サンタじゃねーのかよ、外赤いのばっかだったぞ」

「織姫が私にはこれしかないって」


もしかしてこの格好で帰って来たのかと眉を寄せながら問えば、大きく頷く姿にまたも溜息を吐かざるを得なかった。街にはコスプレした人間がうようよしているから可笑しな格好で歩こうがそれに関しての文句はない。それよりもこんな明良を俺以外の男が既に目にしているということが悔しくてならない。
ツノを引いてフードから頭を出してやれば、きょとんと不思議そうな表情を浮かべる明良に大きな目で見上げられては無意識に俺の手はそこへ伸びてしまった。


「わわっ、ちょ、ボサボサになる、」

「……なんつーんだっけか、鹿?」

「トナカイ!」


気持ちがバレないように乱暴に撫でた頭を抑えた明良は手櫛で髪を整える。「鹿コスでも変わんないか」と撫でたことを誤魔化すために適当に言った言葉を彼女は律儀にも返してくれる。結局どっちでも良いんだろ、と笑ってやれば、突き返すことのないフワリとした笑顔が俺へ向けられた。
この笑顔が堪らなく好きなんだ。
両親が共働きとなっているこの家で彼女と二人きりで過ごすことはしょっちゅうあるのだが、今程抱きしめたいと思ったことはないかもしれない。袖から少しだけ出ている指を取りそれに絡めれば、ギョッとしたような表情をしてすぐに距離を取られてしまった。今、俺は何をしようとしたのだろう。我に返って謝るも、彼女は警戒心を隠さずに睨んでくる。耐えられないものではない、だけどこんな目で見られるのは初めてのことで、ズキリと胸が痛んでは硬直した身体も動かすことが出来なかった。


「一角」

「ん」

「私に手ェ出したらパパとママに追い出されるよ」


そんなことわかってる。だから今まで我慢してきたんだ。本当だったらずっと触れていたい。無邪気な笑顔を独占したい。出来ることなら、俺以外の男なんて視界にすら入れて欲しくないんだ。
彼女の剥き出しの警戒心は声にも出ていて、いつもより低いそれが耳に入ってくるも、もう気持ちはバレてしまったと諦めた俺の頭はただ彼女を抱きしめることしか考えられなかった。腕を掴んで引き寄せれば軽々と胸へ吸い込めてしまう。抵抗してくれれば出て行く決心もつくというのに、彼女は身動き一つ取るこなく俺の腕の中で大人しくしている。驚いて固まってしまったのだろうか、自惚れてもいいのなら、彼女の気持ちを聞く前に、俺の気持ちをしっかりと口にしていたい。
抱きしめる腕の力を緩めればすぐに離れてフードをかぶられてしまうが、チラリと見えた頬が赤くなっていたのは気のせいではないだろう。俯いてしまった彼女の頭からは、笑えるくらい間抜けなツノが小刻みに震えていた。


「ツノ、邪魔」

「だから、私に手ェ出したら、」

「今日だけでも良い、……俺へのクリスマスプレゼントだと思って……俺から離れんなよ」


自分勝手な発言は百も承知だ。だけどこう言えば彼女が断れないこともわかっている。
ゆっくりと上がった顔は真っ赤になっていて、「お、クリスマスカラー」なんて笑ってやれば今度は彼女の方から飛びついてきた。背中に回された腕は必死に俺のシャツを握りしめているようで、頭から生えているツノはぐいぐいと俺の顎を下から押し上げてくる。わざとだろ、とフードを取ってやれば、恥ずかしそうに目を逸らしながらも顔を上げてくれた。


「今日一日だけだ。明日からはもう他所へ行く」

「ダメ。……一角から私へのクリスマスプレゼントとして、帰らないといけなくなるまで私の隣に居て」


出て行く気なんてさらさら無かったというのに、勝ちきった俺の口からは彼女を誘導するような言葉しか出てこなかった。やっぱり自惚れて良かったようだ。好きだ、と軽く口にしてみれば、彼女は俺の好きな笑顔を向けてくれる。
悩んでいた自分が恥ずかしい。我慢していた時間が勿体無い。

とてつもなく可愛らしいトナカイはサンタではないのだが、プレゼントはしっかりと運んできてくれたようだ。




それがプレゼントでもいいから





(ね、トナカイ、可愛い?可愛いって言って?)

(ああ可愛い可愛い。けどマジでツノ邪魔それ被んな)







─クリスマス企画2015─

END
(プリーズ ブラウザバック)



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