「しーんーじーくん」 蝋燭の明り一つの薄暗い彼の部屋に足を踏み入れれば机に突っ伏したままの彼の姿があり、私の声に反応したのかピクリと肩を震わせてからゆっくりと顔を上げた。 「なんや、明良か」 寝惚け声でそう言った真子は座ったまま伸びをしてトントンと側の床を叩く。机に肘を付いて私を見る目は未だ眠そうにトロンとしていた。促されるまま隣へ正座すると、すぐに肩へ顎を乗せてきてはペロリと耳を舐められる。擽ったくて身をよじれば抱き寄せられて逃げることは出来なかった。 「書類持って帰って来たの?」 「ん、終わらんかったわ」 クリスマスだからと休みが取れるわけもない隊長位に就く彼へ、付き合い始めてから初めて我侭を言ってみた。仕事が終わってからでいいから少しだけ時間をくれと申し出ればすぐに了承の返事を返してくれたことは嬉しかったけれど、目の前に詰まれた書類と眠そうな彼の顔を見て後悔している。言わなければ良かった。 「ごめんね、忙しそうだしやっぱり私部屋に戻る」 肩へ顔を埋める真子はまた眠ってしまったのだろうか、何も答えないし私の腰へ腕を回したままピクリとも動かない。こんなに甘えてくるのは珍しいことだ、と柔らかい彼の髪へ頬を摺り寄せれば少しだけ顔を上げられて小さく首に吸い付かれた。 「疲れてるね」 「……せやからもぉちょいおってな」 掠れた声が私の耳のすぐ近くで発せられる。心地よく鼓膜を揺らすそれに目を伏せながら、無意識に口が弧を描いたのがわかった。 クリスマスらしいことなんて何も予定はしていなかったけれど、ただ一緒に過ごせるだけで満足だと感じるのは彼の側にいるのがとても心地良いから。 席官位に就く私も早々時間が取れるわけもなく毎日仕事が終われば部屋に戻って倒れるように布団へしがみつく。そんなのと彼は比べ物にならないくらい忙しいのだろうが、私のために少しでも時間を割いてくれることで心は満たされてしまう。 「メリークリスマス」 足りないと彼の背中へ腕を回せば頭へと移動した手がしっかりとそれを包み、ギュッとさらに引き寄せられる。さらさらの髪が頬を掠めては彼の香りに包まれ、直後に小さくだが声が聞こえた。 「結婚しよか」 目を見開いて驚く私の顔を覗き見るように離れた真子はそのままクスリと微笑み、頬を撫でながらゆっくりと言葉を紡ぐ。 「一緒に住めばオマエで毎日充電出来るし、……俺かて淋しないわ」 優しい声音で話す彼の綺麗な瞳に見つめられ、硬直していた私の身体は漸く動くようになっていた。蝋燭の明りがゆらりと小さく動いたかと思えば床に映った二人の影も同時に揺れる。静寂に包まれた中で彼がそっと私の頭を撫で、「返事は?」と促されれば何かが詰まったような喉から絞り出せたのはたった一言だけだった。 「嬉しい……」 またもギュッと抱き締められて耳元で囁かれる。 「幸せにしたる」 (これから毎日一緒に居られるんだね) クリスマスの日にだけ (なんてもう言わせへん) ─クリスマス企画2015─ END (プリーズ ブラウザバック) |