b BLEACH

□嬉しくて堪らないから
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横腹の重みに目が覚めた。覚醒しきれていない目に映り込んだのは壁で、圧迫されるお腹へ片手を伸ばすと逞しい腕だということに気付く。少しばかり身じろげば頭の下にもそれがあるのがわかった。後ろからは静かな寝息が聞こえてきて、振り返ろうと寝返りを打とうとすれば腕枕はしっかりと私の肩を抱き、お腹に乗せられている手はそこをぐるりと包み込む。グッと抱き寄せられたかと思えば頭には彼の鼻先が当たり、すぐにまた寝息が聞こえるかと思ったが耳に届いたのは布擦れの音と低い声だった。


「すまん……苦しかったか?」


抱き締められていた腕から力が抜けたのがわかり、ごそごそと身体ごと振り返れば目の前は泰虎の顔でいっぱいになる。眠気眼の彼の瞼へキスを落とせば、身体へ回っていた腕にまたも力を込められた。暖かい、そう言おうとした口はすぐに彼のそれで塞がれてしまい、忽ち舌を捻じ込まれればゾクゾクと身体が痺れてきてしまう。


「ん、……やす、」


寝起きの掠れた声が私の口から漏れる。加湿器の水が無くなってしまったのだろうか、だけど彼の唾液で潤されていく度に甘い声へと変わっていく。昨晩の情事後に服を着ぬまま寝てしまったため、直接肌と肌が触れているのがより一層興奮させてくれた。ああでも、今からまたとなると明日は本当に立てなくなるかもしれない。今でさえギシギシと腰が痛むのだから、これからもう一度行為を行うと快感を覚える前に背骨が折れてしまいそうだ。
背中を撫で始めた彼の手を掴むと、唇が離れて困惑した目が私を捉えた。


「泰虎、今からシちゃったら私壊れちゃう」

「ん……そうか……すまん」


白地に残念そうな顔をするものだから少しばかり笑ってしまった。小さなリップ音と共に額に口付けられては頭を優しく撫でられる。「私いつの間に寝ちゃった?」とピロートークの記憶も曖昧ながら、頭上にある携帯に手を伸ばし時間を見ると、画面には12月25日と日付が表示されていた。


「メリークリスマス」


そう言って厚い胸板へ顔を埋めれば、ギュッと抱き締められてからすぐにその力が弱まる。キョトンとしながらも離れた腕を目で追うと、何かを取った彼の手が私の眼下に降りてきた。


「ん」

「え、泰虎から?」


付き合って六年。最初の年こそクリスマスにプレゼント交換をしたが、一緒に暮らし始めてからはそれも無くなっていた。一緒に夕食をとって小さなケーキを二人で分けて、いつもより官能的に身体を重ねる。それだけでお互いが満足出来ていたというのに、渡されたのはシンプルにラッピングされた小さな箱だった。


「ごめん、私用意してない」

「……いい」

「開けていい?」


小さく頷いた彼を見てリボンを解き、箱を開けてみればその中にはまたも箱。だけどそれを目に入れた瞬間、息が止まってしまうのではないかというほど身体が硬直した。薄暗い中でもわかるそれは私の手に納まるほどの小さなもので、手前からパカリと開けばオレンジ灯を反射して煌く。胸の奥が熱くなると同時に彼の目へ視線を移すと、頭の下にある腕が曲げられてそっと髪を撫でられた。目頭が熱くなりみるみるうちに視界が滲む。滴る涙が彼の腕を濡らせば、腰に回された腕にまたも力が込められた。額と額が合わせられ、ゆっくりと言葉が紡がれる。


「明良からのプレゼントは……明良自身がいい」


ああもう、そんなの。
私は六年前から泰虎のものだというのに今更私なんかをプレゼントに選ぶなんて。


「うん……私の全部、泰虎にあげる……」


ありがとう。人生で最高のクリスマスになったよ。




嬉しくて堪らないから




(黒崎に早速報告してもいいか?)

(うん、早く連絡しよ?)






─クリスマス企画2015─

END
(プリーズ ブラウザバック)



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