凍った水溜りに足を踏み込めばパリッと爽快な音を出して亀裂を作る。罅割れたそこから足を引いて思い出すのは彼のことだけだった。 「明良ー!」 「っ、松本さん?」 「うっわ身長伸びたわね」 こんなに小さかったのに、と地面と平行にした掌を腰辺りで揺らす彼女は初めて会った時と何も変わっていなかった。五年も前になるだろうか、目の前で私の頭を撫でてくれる松本さんと、彼が私を助けてくれたのは。 「お久しぶりです」 「ん、久しぶり」 「任務ですか?」 「うん、ちょっとね。仕事は終わったんだけど、今から隊長に何か買ってあげようと思って」 お土産か何かかと思っていたのだが、フワリと微笑んだ彼女の口からは"誕生日"というフレーズ。今日は、彼の誕生日らしい。現世の人間である私にとって、死神達の誕生日会はどんなことをするのかわからないが、物を贈るということに変わりはないらしい。 会いたいと思っていた時にこの鉢合わせは嬉しい、それに彼の誕生日ともなれば私も何かを贈りたい。日番谷さんが私のことを覚えているかはわからないけれど、忘れられていたとしても"おめでとう"という気持ちだけは伝えたかった。 「あの、私からもお願いしていいですか?」 そう言うと松本さんはきょとんとした表情を見せる。かと思えばすぐにニヤリと厭らしく笑い、「いーやーだ」と否定の返事を返してきた。 「え、どうしてですか」 「なんとなく」 いたずら顔の彼女は豊満な胸を揺らしながら跳ねるように私から遠ざかる。笑顔で「またね」と言ってくれるのは嬉しかったが、拒否されたことに少しばかり悲しさを覚えた。 隊にある位で彼女は上位だと以前聞かされた、もちろん日番谷さんも。彼等が物凄く強いことは私にだってわかっている。虚という怪物に襲われそうになったとき、一瞬でそれから助けられたのだから。その時に見た氷の柱が、月明かりで幻想的な美しさを放っていたことも、忘れられない記憶として、未だ脳裏に焼きついたままだ。銀色の髪を靡かせて、彼と目が合ったことも、私は鮮明に覚えているのだ。 昨晩降った雨の溜まり水が凍りついた地面の一部分にまたも足を踏み込めば、今度はツルリと滑って身体が傾いてしまう。転ぶ、と目を瞑ってみたものの、誰かに支えられて痛みが襲ってくることはなかった。 「あ、ありがとうござ、い……」 「気をつけろ」 振り返れば私が目を見開くのに申し分ない人物が身体を支えてくれていて、風が目の前の銀髪をフワリと揺らす。咄嗟に手を伸ばしてそれに触れれば、妄想が生み出した幻覚でないことがわかって息を飲んでしまった。 「ひ、日番谷さん、」 「俺より身長高くなったからって会って早々頭撫でるか普通」 眉間に皺を寄せる彼は会った時と同じ表情をしている。違うことと言えば、私が彼を見下ろしていることくらいだろうか。 「日番谷さんも、任務で?」 「ああ、松本と調べ物だ」 「よく私がここにいるって、」 そこまで言って松本さんが残した言葉と笑みを理解することが出来た。どうやら彼女には私の気持ちがバレてしまっているらしい。 どれだけ彼に会いたかっただろう。冬が来る度に焦がすような想いが溢れそうになっていた。街を歩けば見かける氷が、嫌でも私に彼のことを思い出させる。 やっと、会えた。 「日番谷さん、誕生日おめでとうございます」 「ああ」 それと、これも言わせて欲しい。 「ずっと、会いたかったです」 大きな目がさらに丸くなった彼にクスリと微笑めば、怒られるかと思っていたのにその表情は柔らかく笑みをこぼした。 「俺もだ」 (誕生日プレゼント何も用意してません) (お前に会えただけで十分だ) END HappyBirthday! 日番谷冬獅郎生誕祭2015 (プリーズ ブラウザバック) |