屋根の上で寝転がる彼を見つけるために、私の瞬歩スキルは些か上がった気がする。 なんてったって一日に二度、それが毎日だ。 朝一と午後一のそれが第六席である私の第一の仕事だと弓親さんに言われたのはもう何年も前のこと。 「あ!いた!一角さん!」 眠気眼を面倒臭そうに開いた彼は私を一瞥してまたも瞼を閉じる。 動いたのは本当にただそこだけで、あとはビクともしていない。 側へ着地して仁王立ちで霊圧を垂れ流せば、徐々に眉間に皺を寄せる姿に気分が良くなった。 「明良、それやめろ」 「やめません一角さんのために作られたようなものですから」 阿近さんに貰った装置は一角さんの霊圧をもとに作られたものだ。 私の霊圧を送り込めば彼のそれと反応して身体を痺れさせる、実に阿近さんらしい発明品だ。 どうして私にくれたのかはわからないが、使い道が出来た今となっては感謝してもしきれない。 「弓親さんのこめかみの血管が切れちゃいます」 「切れさせとけ」 「イヤですとばっちり私にくるんですもん」 「じゃあ俺ァ関係ねーだろ」 「いやだから、一角さんのせいで私が怒られるのが勘弁」 横になった顔の隣に両膝をつき、四つん這いになって彼の表情を覗き見る。 近くなったことでさらに眉を寄せる姿に、私の口端は無意識に吊り上がってしまう。 「ほらほらビリビリするでしょー」 「離れろ鬱陶しい」 「イヤです離れません一角さんが書類を前にするまで私はべったりしてなきゃらならないんです」 溜息を吐かれようともうそれも慣れたものだ。 ギロリと睨まれても口笛だって吹けるようになった私は精神的にも強くなったのかもしれない。 「お前はもっと上官を敬うべきだ」 「じゃあ一角さんも副隊長のこともっと敬って下さい」 女性死神協会会長ですよ!と続ければ、また大きく溜息を吐く。 一角さんの呆れた顔や怒った顔は嫌いではない。 むしろ好きだ。 どうしてこんなに格好良いのか疑問である。 周りはハゲだとか煩いだとか言うけれど、こんな表情見たことあるのだろうか。 戦っている時の一角さんを、見たことがないのだろうか。 「おい、行くから、もうそれやめろ」 「了解です。でも起き上がることは出来ますよね」 この程度の痺れ(実のところどの程度か私にはわからないが)問題ないだろう。 多量の出血でも笑って戦う彼にとっては睡眠を邪魔されるだけのただ鬱陶しいものでしかないはずだ。 四肢を動かせなくなる程のものでもないだろう、でないと私のこの言動の意味さえなくなってしまう。 漸く上半身を起き上がらせた一角さんは少しばかりはだけた襟元を調えてもう一度溜息を吐いた。 「さ、行きましょう」 「だからお前もうそれよせ」 「動けますよね?」 「動けるが動きたくなくなる」 わかりました、と流す霊圧の量を減らすと、またも眉間に皺が寄るのがわかる。 どうしてだか数分前より太陽の陽射しが強くなったようだ。 身体が熱い。 「弱めろって言ったんじゃねぇ、やめろって言ってんだよ」 「だから書類を前にするまではやめませんってば」 腰をついて笑ってみせればギロリと睨まれて、もう一度「行きましょう」と声をかけて立ち上がろうとすればぐいっと片腕を引かれて身体がよろけた。 一角さんの胸で受け止められて痛みは無かったが、温かな体温が私の頬を熱くする。 「い、一角さん?」 「おら、やめねーともっと色々やんぞ」 雲一つない青空の下、"色々"とは何なのか気になってしまった。 動かない私を不思議に思ったのか、何度か目を瞬かせてからそれが徐々に弧を描く。 「……されてーのかよ」 くいっと持ち上がった彼の口端に期待して、それから私は霊圧を弱めることなく身を任せた。 唇に柔らかな感触を覚え、ゴツゴツした手に頬を撫ぜられる。 息苦しくなって彼の死覇装を握り締めれば、リップ音と共に唇が離れた。 「さっきより強くなってんじゃねーか」 「もう制御不能です」 「あ?」 「一角さんがこんなことするから」 ふっと笑った彼の顔があまりにも格好良くて、直視出来ずに目を逸らしてしまう。 直後に耳元で「じゃあ続きする」と囁かれては、力が抜けてしまい流す霊圧をゼロにしてしまった。 「んだよここで引っ込めんのか」 「だって、」 優しく頭を撫でられて呆れた顔で溜息を吐く。 やっぱりこの顔が一番好きだ。 触れられているところが熱くて仕方が無いけれど、離れたくなくて死覇装を握る手に力を込めた。 弓親さんに怒られるくらい、もういいかもしれない。 (もう一度ビリビリさせたら続きしてくれますか?) (いやもうさせなくてもする) END (プリーズ ブラウザバック) |