あれから何日が経っただろう。 溜息ばかりの生活に嫌気がさしたのは私ではなく竜貴だった。 「鬱陶しい」 「ありがとう」 パコンと丸めた教科書で頭を叩かれて、痛い痛いと嘘泣きをしていると千鶴が抱き締めてくれる。 こんなのが日常。 高校に入学してからの毎日はふざけて竜貴に怒られて千鶴に守られて。 そして「煩い」と鈴ちゃんに私と千鶴が叱られて。 そんな毎日が楽しかったのに、口が滑ってしまった告白によって気分はただただ下がる一方だ。 「あんた最近溜息ばっかだね、なんかあった?」 なんだかんだ心配してくれる竜貴が大好きだ。 だけどこればかりは言えない。 あんたの幼馴染に勢い余って告白しちゃいました、なんて。 「恋の悩みとかだったら口にしちゃいけないからね!」 「明良が恋?!」 「千鶴みちる声大きい決定付けないでほんとそういうの勘弁して」 私が恋なんて有り得ないか、なんて雰囲気になるのは悔しいが助かる。 放課後二人きりの教室でいつものように勉強を教えて貰っていたというのに、つい見惚れてしまって「ここ間違ってる」と言われた返しで口にしたのは心の声だった。 「好き」と言ってしまった後に言い訳もしようが無いほど顔が真っ赤になってしまった私に黒崎はきょとんとした表情で何も答えてくれなかったから、すき焼きでも食べたいね、なんて言っておけば良かったのにパニックを起こした私の脳内は逃げることしか思いつかなかった。 「はぁ」 「うわもうお昼の時くらいその空気やめてよ」 「ねぇねぇ織姫、恋したことある?」 「有沢見事にスルーされてる」 「明良ちゃんがそういう話するの珍しいね」 「てか明良ほんとに恋?恋してるの?誰?誰に?」 「鈴ちゃんみちるを止めて」 「私も気になるから止めない」 「明良が恋してるとか認めない!誰?!殺しに行って来る!」 相も変わらず昼食時は騒がしいのだが、いつもと違うのは今日は私の恋愛トーク。 レジャーシートを敷いた外での食事だと言うのに声量を気にすることなく盛り上がり始めた。 もう自分で切り出すほど切羽詰っていると全員に察して欲しい。 誰とは言えないが告白してしまいましたと報告すれば、ポカンと開いた口が一つ、二つ、三つ……おいおい全員かよ。 「なにそれアンタそこまでバカだったの?」 「鈴ちゃんお願い傷口に塩を塗らないで」 「傷口って明良まだ振られてないじゃん」 「『隙あり!』とか言って殴れば誤魔化せたのにね」 「それ竜貴にしか出来ないでしょ」 「明良ちゃん凄いね、私そんなこと出来ないや」 「私もしたくなかった」 「だからどこのどいつなの?!」 立ち上がった千鶴のスカートの裾を握って止めている竜貴は呆れながら私へと目を向ける。 「とりあえず一護だったら相思相愛だったのにね、あいつなわけないか」と笑う竜貴の科白にボンッと効果音が付きそうなほど私の顔が赤くなったのがわかる。 なに、今、なんて言ったの。 「この顔まさに黒崎じゃないの」 「え?!黒崎くん?!」 「黒崎くんと明良ちゃんかー、仲良いしお似合いだね」 「いや待って、ほんとに一護なの?」 「よーし黒崎一護ロックオン、行って来る!」 「……竜貴、私耳がおかしっくなったのかな、相思……なに?」 「あたしはあんたと自分の目を疑う」 ギャーギャー騒ぐ千鶴はもう放っておいていいかとスカートから手を離した竜貴がポカンと口を開いたまま固まってしまい、自由になった途端に走り出した千鶴は一目散に彼を探しに行ったようだ。いや、それよりも。 「竜貴さん、どういうことなのかな」 「あたしマズイこと言った気がする」 「でも黒崎くんも明良のこと好きならキョトン顔が意味わかんないよね」 「それは黒崎がただ理解出来てないだけでしょ」 「え?!そうなの?!」 告白してから随分避けられてる気がしてならないという私の発言はどうやら皆を笑わせるには十分過ぎたようで、ケラケラ笑う一団と呆ける私の頭上から千鶴の声が聞こえる。 「黒崎一護テメェ盗み聞きとはどういう料簡だ!」 校舎の窓から顔を覗かせた千鶴が黒崎の首根っこを引っ張っているのが見える。 パタリと倒れた私をよそに竜貴と鈴ちゃんのこれでもかと爆笑する声が聞こえた。 「聞いてたなら早いじゃん、黒崎ー返事ー」 「もうあたしが言っちゃったけど一護ー返事ー」 「たつきテメェ覚えてろよ!」 「黒崎くん顔真っ赤!」 「ほらほら明良、照れて倒れてる場合じゃないよ?」 みちるに揺すられても脱力してしまった私の身体は起き上がる気力すら失ってしまっている。 今の会話をどこから聞いてたのかは気になるがもう顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。 キャラじゃないとわかっているが両手で顔を隠すには申し分ない状況だと思う。 なにこの新手のディスり方。 鈴ちゃんに無理矢理身体を起こされても手で覆った顔を上げることは出来なくて、だけど皆がニヤついている空気だけは嫌でもわかった。 「放課後、言う」 ただそれだけの黒崎の言葉でまたもパタリと倒れた私に鈴ちゃんと竜貴は容赦なく身体を叩いてくる。 「本匠いい仕事した!」と嬉しそうな鈴ちゃんの声は私に歯軋りをさせるに申し分ない発言だった。 「ねえ、黒崎って本当はバカなのかな」 「あたしもそう思う」 皆の放課後の予定が決定したのは言うまでもないだろう。 もうどんな方法を使ってでも私達を見守るに違いない。 プラスで何名か増えるのも目に見えている。 浅野とか小島とか引き連れてバレないようにしながらもバレるくらい騒いで覗いてくるに決まっている。 「返事聞きたくない」 「もうわかってるからいいじゃん」 またもケラケラ笑う中に「おめでとー」という言葉がちらほら入る中、予鈴が響いて皆が立ち上がる中で私は竜貴の腕を借りないと立ち上がれなかった。 (もうここでご飯食べるのやめようよ) (あんたはこれから一護と食べたりするんでしょ) (……それ超嬉しい) END (プリーズ ブラウザバック) |