その大きな身体でなにを守ろうとしているかなんて心も身体も小さな私にはわからない。 いつもどこかに傷を作ってきて何があったのか聞いてもただ黙り込むだけか小さな声で呟くだけ。 転んでそんな傷が出来るとも思えないし血だらけになるまでどれだけ転んだというのだろう。 泰虎は嘘が下手だと思う。 私が気付かないとでも思っているのだろうか。 「あ、また喧嘩したの?」 「………」 「ほどほどにしなよ、この前の痣だってまだ消えてないんだから」 中学生の頃に柄の悪い男達に絡まれているところを助けてもらってから、彼はよく一緒にいてくれるようになった。 大丈夫だと声をかけてもただじっと私の側を離れない。 おかげで男の人に絡まれることも無くなって助かっているのはあるのだけれど、そんな私のために彼の時間を割いていると思うと申し訳なかった。 だって私は恩返しなんて一つもしたことがないから。 「ねえ虎、今日二時限目出てなかったでしょ、ノートうつす?」 コクリと頷く彼には小さなノートを差し出せば、無言で自分のノートにペンを走らせる。 部活生の声が窓の外から入ってきても教室内は静寂に包まれていた。 最初はこの静かな空間が苦手で何か話さないといけないのかと焦って言葉を連ねていた昔とは違い、今はこの空間が心地良い。 何も言わない彼が守ってくれているのだと勝手に解釈してその存在に大いに甘えさせてもらっている。 癖のある髪の毛と下を向いていることから見えないが、その目がどんなに強いものかも知っている私を安心させてくれる要素の一つだ。 彼はいつまで私の側にいてくれるのだろう。 「虎……どこにも行かないでね」 彼がいなくなった時のことを考えると勝手に口が動いていた。 何を不安になっているのだろう。 彼が側にいてくれるようになったのはここ数年のことなのに、出会う前にどんな生活を送っていたのかも思い出せない。 彼がいない生活を想像すると、安心出来ない毎日というより寂しさが込み上げた。 顔を上げた彼は驚いたように目を見開いていて私の言葉が届いたことがわかった。 いつも断り続けているというのに突然こんなことを言われれば驚くに決まっている。 だけど堪らなかったのだ。 彼が私から離れることが。 「……お前に邪魔だと言われようと、俺は離れるつもりはない」 いつもの彼とは思えないような強い口調に今度は私の方が目を見開いて驚いてしまった。 たった一言でこんなに安心してしまうなんて思いもしなかった。 彼は身体だけでなく私の心までも守ってくれているような勘違いまでしてしまう。 「名前、呼んで」 「……明良」 「もっと」 「明良、……明良」 落ち着く。 その低い声で名を呼ばれるだけで彼が近くにいると心底安心してしまう。 離れられないのは、私の方かもしれない。 「虎、私を守ってよ」 我侭だとわかっている。 彼に対して私は何もしていないのに、ただ守られるだけの存在でもいいから側にいて欲しいと願ってしまうのだ。 なんて勝手なんだろう。 だけど彼がいなくなってしまえば私の中の世界は一瞬で崩壊してしまうに決まっている。 彼がいないと歩くことさえ出来ない気がする。 「ねぇ虎、」 「……言われなくても、そのつもりだ」 その強い目と、言葉。 いつか、その大きな身体で私を包み込んで欲しい。 絶対に離れないと約束して欲しい。 私は何もしてあげられないけど、私の我侭だけを聞いて欲しい。 どこかに行ってしまうと言うのなら、私の腕を引いて無理矢理にでも連れて行って欲しい。 そのくらい私は、あなたに依存してしまっているのだから。 (勝手にどっか行っちゃったら叩くから) (……ん) END (プリーズ ブラウザバック) |