「明良、お主斬魄刀の解放に至ったらしいな」 「ルキアさん!」 明良が初めて斬魄刀の始解に辿り着いたとき、ずっと鍛錬に付き合っていた清音の次に喜んだのがルキアだった。 同じ平隊員だというのに何年も前にその力を手にしていたルキアは、席官クラスの実力があるのになかなか昇進しない。 風の噂では、誰かがストップをかけているということ。 危険な任務が増える席官の位にルキアをおかないというものだった。 同隊三席2人の任務に明良とルキアが同行した際、軌道と浅打の斬魄刀でしか戦えない明良が全く歯が立たない虚相手にルキアは怯むことなく戦っていた。 その時初めてルキアの斬魄刀を目にした明良は、とても綺麗で澄んでいる、持ち主本人のようだと深く見惚れた。 強くて綺麗で、明良はそんな彼女に憧れた。 そして最近、明良にとって気になることがある。 よくルキアと話している六番隊副隊長、阿散井恋次。 流魂街出身の二人は共に育ち、家族のようなものだと語ったルキアにとって、彼は紛れもない大切な存在なのだろうと明良は認識していた。 女性死神の間でも人気度の高い恋次の話題は、その輪の中に入らなくとも勝手に届く。 今日はあそこで鍛錬をしているとか、明日は非番らしいとか。 「よお」 それが見かけるたびに明良に声をかけてくるのだ。 ルキアと一緒にいる時に知り合っただけの仲だが、これがいつからか嬉しいと思うようになった明良。 「あ..阿散井副隊長、お疲れ様ですっ」 十一番隊に書類とおすそ分けの茶菓子を持って来たところで、十一番隊第三席の班目と並んで歩く恋次に鉢合わせた。 焦って頭を下げる明良の前で、二人は足を止めた。 「珍らしいな、一人か?」 「はいっ、浮竹隊長からの急ぎの書類と、草鹿副隊長にお茶菓子を、」 そこまで言って動く口を止める。 恋次は何故ここにいるのかではなく一人なのかと聞いている、ルキアを探しているのだと気付いた明良は焦ってまたその口を動かした。 「あ、ルキアさんは今日は非番なので、ご自宅にいらっしゃると思いますっ」 実際のところルキアがどこにいるかはわからないが、非番だということは伝えられたと安堵した明良。だがさすがに朽木宅へは乗り込めないと後から気づき、ハッとまた我にかえる。 「いや、まあルキアのことはいいんだけどよ...」 困ったように苦笑いで頭に手をやる恋次に、すみません、と明良は小さく頭を下げた。 「おい恋次、こいつなんだ?」 黙ってやりとりを見ていた班目が、目の前にいる明良を指差し恋次に問う。 「あ、初めまして、十三番隊所属の真滝明良と申します!」 はりきって自己紹介をする明良から何かを思い出したような表情で隣に立つ赤髪へと視線を移した班目は、みるみる顔を強張らせる恋次とは対照的にニヤリと口角を上げ、そのまま舐めるような目を自身が指差す方へと向けた。 「なるほど、こいつか...おめぇがいつも酔った時に連呼する、っ、」 「一角さん、まじ、ちょっ、すんませんっ」 慌てて横にいる男に手で口を塞がれた班目がギロリとその手の主を睨みつける。 話途中と苦笑する恋次を見て、何事かと明良は首を傾げた。 恋次の手を払いのけた班目が思いきり不機嫌な顔からゲラゲラと笑いだす。 またも何事かと明良の目が見開かれ、容赦なく肩をバシバシと叩かれた。 「奥手には困るよな、まったく」 がんばれよーと一人歩き出した班目を目で追いながら惚けていた明良に後ろから小さな溜息が聞こえた。 振り返った先の恋次は項垂れた頭を片手で抱えていてまたも明良は首を傾げる。 「あ...阿散井副隊長?どうかされたんですか?」 先程の行動といい今の状態といい、いつもの彼ではないと感じた明良はいつの間にか恋次の顔を覗き込むように見上げている。 それを視界に入れた恋次は咄嗟に一歩後退した。 あまり近付き過ぎたのかとまたも謝る明良に恋次はおどおどとだが必死に否定の言葉を連ね、用があるからとそのままその場を去った。 「はあ...」 十一番隊詰所に恋次の溜息が響く。 最近ルキアを介して随分仲良くなったと自惚れていた自分が途端に恥ずかしくなったのと、嫌われたのではないかという焦燥にかられる。 目の前で意味不明な行動と分かれ方。 話すことはいつもルキアのことばかりで明良自身のことなど何一つわからない物足りなさ。 それにまさか酔った時に名前を連呼していたことなど自分よりも呑み漁る班目が覚えているとは思いもしなかったのだ。 「明良ー」 無意識に口から出た想い他人の名がやけに心地いいと、天井を見上げた恋次の足が止まった。 いつからだろうか。 ルキアを見かける度に一緒にいるであろう明良を目で探すようになったのは。 恋次の中で徐々に大きくなるその存在が、身体を動かす原動力となりつつある。 「あっきーがどうかしたの?」 惚けていた足下からの声に、恋次は焦って視線を落とす。真ん丸の大きな目を瞬かせる前隊の上司が目に入り、聞かれていたことにビクリとかたを揺らした。 「あ、明良がなんか持ってきてましたよ、饅頭だと思います」 「わーー!」 満面の笑顔で執務室へと走り出した草鹿を目で追い恋次はまた溜息をつく。 自分もあれぐらいあからさまに明良への想いを表現出来ればいいのにと、用を済ませて十一番詰所を後にした。 |