「………すみません」 「伊勢、お前が謝るごとじゃねーだろ」 「今日はここか」 伊勢、日番谷隊長に続いて、俺も呆れて口から声がもれた。揃って溜息を吐く。 十三番隊の鍛錬場を見下ろせる少し高めの丘は、陽当たりも良過ぎることから昼寝をするにはもってこいの場所だった。 顎髭を引っ張りながら自隊の長を起こす伊勢の隣で、頬を叩きながら耳元で副官の名前を叫ぶ日番谷隊長。 「あれ?日番谷隊長、どうしたんですか?」 「七緒ちゃーん、もう起きたから離してもいいと思うよー」 目を覚ましてすぐ怒鳴られる2人の間で眉一つ動かさず眠り続ける姿を眺めながら、もう何度目かの溜息をついた。 「このこ、なんでこんなに近くで騒がれてるのに起きないのかしら」 羨ましい、と続けた乱菊さんにまた日番谷隊長からの怒声がとぶ。王子様からの熱い口付けがないと起きないのかねえと笠を持ち上げ顔を近づけた京楽隊長に制止をかけたのは伊勢ではなく俺だった。 「京楽隊長のお手を煩わせるほどのことじゃありませんよ」 連行される2人を後目に未だ寝息を立て続ける鼻をふさいだ。少しだけ眉間に皺を寄せたようだ。 「明良、起きねーともう呑み連れてかねーぞ」 パチリと大きな目が開く。先程までの騒ぎが嘘だっかのようにすんなり明良は目を覚ました。 「副隊長が、夢にでてきました」 「そうか、続きは溜まった書類を片付けてからみてくれ」 「いえ、虚に食べられちゃったので、もうこの続きはみません」 身体を起こし、目を擦りながらそんなことを言う明良に、どんな夢みてんだと怒鳴りたくなったが躊躇した。東仙隊長が藍染とここを出てひと月。忙しくてたまらない。あの人は、こんなに忙しそうにしていただろうか。俺はこいつの手も借りないと片付けきれないといのに。 「副隊長、呑み連れてかないっていう前に、そんな時間ないじゃないですか」 立ち上がってそう言った明良は、腕を上げて大きく伸びをする。昨日も大分遅くまで手伝わせてしまったため、昼寝をしていようとそう簡単に叱れない。俺のせいでもあるのだ。 「今日は久しぶりに行こうと思ってたんだよ、」 「えっ、じゃあ何でもっと早く起こしてくれないんですか!」 「いっつも違うとこにいるからだ、探すこっちの身にもなれ」 すぐ見つかったら寝れない!と解いていた髪を一つにまとめながら頬を膨らませた。いなくなったと思えば隊員は誰も見ていないと口を揃える。どうやって釣ってるのか知らないが、こうやって自分で探しに行くのが俺は言うほど嫌いじゃない。六番隊の執務室や十一番隊の鍛錬場、三番隊の隊舎と十番隊の詰所をまわれば勝手に安心するからだ。明良と一緒にいて欲しくないヤツらの顔を見ればとりあえず安心する。吉良と2人でお茶を飲んでたこともあれば更木隊長と昼寝をしてたこともあるし、日番谷隊長の休憩中の話し相手という言い訳で一緒にいたこともあれば朽木隊長と阿散井ですら執務室のソファーを昼寝用に明け渡す。まだ卯ノ花隊長や雛森とお茶菓子を頬張っている方が安心する。まったくどいつもこいつも明良に甘い。 「今日は難しかったですか?」 そう言って笑うところを見ると、俺が嫌々探してるわけじゃないとわかっているんだろう。ハラハラしているとは思いもせずに。 「かくれんぼでもしてるつもりか」 「まさか〜」 探しあてたあとはいつもこうだ。楽しそうに詰所へ戻る。それとも、今日は呑みに行けるからだろうか。 満面の笑みをこちらへ向けて俺の隣を歩き出す。この顔が見たいから、俺は毎日探しに出るんだ。他のヤツらに見つけられてたまるかと、体力を削ってでも走り回る。 「それにしても、副隊長はあたしを見つける名人ですね」 「俺で遊んでんのか」 「四席の分際で副隊長をおもちゃになんて出来ませんよっ」 ケラケラ笑いながらそう言うと、突然走り出して俺の数歩先で振り返る。 「でも、檜佐木副隊長以外の人に見つけられたいとも思いません!」 少しだけ声を張って言ったその言葉に足が止まった。ああ、もうだめだ、我慢が出来ない。止まっていた足をまた動かす。瞬步で明良まで追いついて、そのまま思い切り抱きしめた。 「ふく、たいちょ、、?」 「お前はかくれんぼのつもりかもしれねーが、俺は宝探しの勢いだ」 抱きしめる腕にまた力が入る。こうすることをずっと我慢していたせいか、もう離したくないとまで考えてしまった。 「明良、俺…」 何を言いかけたのか自分でもわからなかった時、固まっていた明良の身体が動いた。静かに動いたその手は、俺の背にまわり死覇装を握る。 「あたしは、お宝ですか?」 明良からのその問いは、俺が胸に押し付けているせいか小さく聞こえた。 「ああ…俺にとっては誰より先に見つけたい宝だな」 そう言うと、背にまわった明良の腕に力が入るのがわかった。 「嬉しいです、副隊長…そうなれたらいいなって思ってました」 腕の力を抜いて、明良の身体を自分から離す。見上げる明良の目を左手で覆い、そっと触れるだけ口付けた。 「どうして目隠しするんですか、」 「なんかすげー恥ずかしいから」 手を離してみればムードも何もない言葉をかける明良に、目を逸らしてそう応えた。 今度は自分から飛びついてきたと思えば、見つけられた時と同じ満面の笑みを浮かべている。 「やっと見つけた気がする」 「副隊長、いつもあたしのこと1番に見つけてましたよ?」 不思議そうな顔をこちらに向けて、俺から離れる。 「いや、何でもない」 そう言って歩き出せば後ろから走ってきて俺の隣を歩く。見つかった時の満面の笑顔で。 (もう明日からかくれんぼ無しな) (違いますよ副隊長、宝探しです) END (プリーズ ブラウザバック) |