企画

□ほの甘ヒロインと一護
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「あ、黒崎くん」


1週間前に初めて会った彼に、私は久しぶりに会うことが出来た。


「買い物?」

「妹の付き添い」


いわゆる荷物持ちだと笑った彼は青果売り場を指差して私にそれを伝えてくれる。指す先にはカゴを持った遊子ちゃんが真剣にキャベツを選んでいるようで、彼女が家事をしているのかと察しがついた。制服を着たままの黒崎くんは帰るなり買い物に連れ出されたのか、それとも帰路の途中で遊子ちゃんに引っ張って来られたのか、どちらかはわからないけれどなんだかんだ着いてくる彼はやっぱり優しいお兄さんだなと無意識に頬が緩んでしまう。セールのために張り切って遠出した甲斐があったようだ。


「***も買い物か?」

「うん、晩ごはん決めてないんだけどね」


頭の後ろで手を組んだ彼は私が腕にかけている買い物カゴを覗くと、「お好み焼きじゃねーの?」と視線を戻してそう問うてきた。


「え、ああ、これ今日安売りしてるのばかりなの。ちょうど小麦粉も無くなりかけてたし……でもそうだね、お好み焼きか、いいかも」

「いいのか」


笑い合っていれば少し遠くから「***さん!」と私の名を呼ぶ声が聞こえて、目を向けると遊子ちゃんが驚いた顔で駆け寄って来ていた。カゴには先程睨みつけていたキャベツやパック詰めの山芋なんかが入っていて、視線に気付いたのか彼女はニコリと笑んで口を開いた。


「うち今日お好み焼きなんです」


きょとん、となったのは私だけでなく隣に立っていた黒崎くんもで、2人で目を見合わせて笑ってしまった。さっきの表情だと彼は自宅の夕食を知らなかったのだろう。でも確かに、今日のこのスーパーの安売り品は、夕飯がお好み焼きになる家庭が多いはずだ。狙ってなのかはわからないけれど、私自身も今お好み焼きにしようと決めたところだったのだから。


「***もウチで食うか?」

「え?」

「わ!それ良い!***さん、一緒に晩ごはん食べましょう?」


テンションが上がってしまったのか遊子ちゃんからキラキラした目を向けられて、お邪魔していいのか考えていると、「あ、でも、」と黒崎くんが小さな頭をワシワシ撫でながら私へと向き直った。


「悪い、勝手なこと言っちまって。家の人待ってるよな」


その言葉に遊子ちゃんがシュンと肩を落とす。なんて可愛いんだろうと頬が緩み、表情に影を落とした彼女の前に屈んで下からその顔を覗き込んだ。心配することなんて何も無い。家には誰も待っていないのだから。


「私も今日お好み焼きにしようかなって思ってたの。一緒に食べてもいい?」


そう言うとすぐにパァッと明るくなった遊子ちゃんの目は黒崎くんへと向けられ、彼からの承諾を待っているようだった。「いいのか?」と問うてきた彼は瞬きを繰り返しながら私を立ち上がらせるが、問題無いと笑えばフワリと柔らかな笑みを浮かべる。キャッキャと残りの材料を探しに行った遊子ちゃんの背を目で追っていると、黒崎くんも妹の小さな背を眺めながら口を開いた。


「夏梨も親父も喜ぶよ」





:::





遊子ちゃんが玄関の扉を開き、その後に荷物を持った黒崎くんがそこをくぐると、私がお邪魔する前にドカンと大きな音が響いた。


「あっぶねーだろ!***に当たったらどうする!」

「遊子の買い物に付き合ってるならそう連絡しろ!見ろ!ほら!19時過ぎてんだぞ!」

「だから今時門限が19時の高校生がどこにいんだ!」

「よそはよそ!ウチはウチですー!***ちゃんだってもう帰って……ん?***ちゃん!?」

「お、お邪魔します」


彼等のやり取りに驚く私をよそに、遊子ちゃんは「わぁほんとだ!もうこんな時間!」とスリッパを出してパタパタと廊下の奥へ走り去っていて、残された黒崎先生は私を見つめたまま固まってしまっている。カクン、と膝が折れた彼へ手を伸ばそうとしたが、それは黒崎くんによって止められてしまった。


「それは気にすんな、上がれよ」

「え、でも、」

「ちゃんと息はしてた」


魂だけ抜けてしまったような黒崎先生を玄関で放置し、リビングへ通された私に夏梨ちゃんが飛びついてきた。遊子ちゃんから聞いたのか「ほんとだ!***さんだ!」と満面の笑みを浮かべている。私の腰へ腕を回した彼女はぐりぐりと頬を寄せて見上げてきたと思えば、黒崎くんの方へも視線を移して怪訝な表情をとる。夕飯の手伝いをしようと巻き付いている腕をやんわり解こうとすると、彼女はそれより早く私から離れてしまった。


「え、え?一兄が連れて来たの?」

「お前そういう言い方、」

「え!!!もうそういう関係??!」


キッチンで遊子ちゃんに並び夕飯の支度をしていると、夏梨ちゃんの大声に持っていた野菜を揃って落としてしまった。目を向けると彼女は口をあんぐりと開けて私を見つめたまま固まってしまっている。夏梨ちゃんまでどうしたのだろうと黒崎くんの方を見てみれば、彼は顔を赤くして「だぁから!違ェって!」と叫び散らかしていた。


「***さん、楽しい?」


隣から遊子ちゃんにそう声をかけられ自分が笑っていることに気が付いた。

こんなに賑やかなのは久しぶりだ。学校ではもちろんこんな風に騒ぐこともあるのだけれど、夕飯の準備をしている時間に1人じゃない上に、テレビからではない人の声を聞けるなんて。


「うん、呼んでくれてありがとう」


あとで黒崎くんにもお礼を言わないと、と夕飯の支度を再開したころで、漸く黒崎先生もリビングへ戻って来た。

将来はこんな素敵な家庭を持ちたいと思い、ざくっとキャベツへ包丁を入れた。





(***さんにお姉ちゃんになって欲しいな)

(え?)







END
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1万打記念リクエスト/ロロン様




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