企画

□石田でギャグ
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※罰ゲームは絶っっっっっっ対に真似しないで下さい。




「わざとだろ」


眼鏡へ手をかけずれてもいないそれを押し上げた彼に、私は恐ろしすぎて目を合わせることが出来ない。冷や汗も出て来そうな重い空気に耐え始めてもうすぐ1時間、先ほどの言葉をもう何度聞き流しただろう。


「わざとだろ……!」


強めの声に微かに肩が揺れ、恐る恐る眼鏡の奥に見える切れ長の目を捉えると、その黒眼に小さくなっている私が見える。震えながら右手を上げ、これももう何度発したかわからない言葉を私は懲りずに口にした。


「事故、です」


その度に吐かれる小さな溜息に、私の寿命が1年ずつ短くなっている気がした。







「またやってんのか」

「くぅぅろぉぉさぁぁきぃぃぃぃ」



ガチャリと音を立てた扉から入って来た黒崎に、私は縋るように床に伏せる。おいおいと泣き真似をしていると頭上からは「鬱陶しい」と言う声が2つ聞こえ、他にもいるのかと顔を上げて濡れてもいない目で彼女を捉えた。


「たつきぃぃ!聞いてよ!雨竜ってばまた私がわざと持ち札バラ撒かせたとか、」

「生徒会室はあんたがトランプするための部屋じゃないの」


付き合う石田も石田だからね、と呆れる竜貴もしれっと私の隣の椅子へ腰掛け、「で、今何戦目?」と散らばっているトランプをまとめ始める。そんな様子を無言で眺めている私とは別に、雨竜は冷静に答えを述べた。


「6戦目だった」

「で、***が5敗?」

「どうして私が全敗してることになってんの」

「……そうだ」

「なに嘘ついてんの!」


ていうかどうして竜貴がいるの、と問うてみればシャッシャッと慣れた手つきでトランプを混ぜている彼女は私へ目も向けることなく足首を痛めたから道場から追い出されたとその事情を説明する。教室へ戻ったところで私を探す黒崎を見つけ、どうせまたトランプでもやってるんだろうと正解を導き出した彼等は迷わずここへ来たとのことだった。


「私探してたの?なに?」


四角い小さなテーブルを囲むように黒崎が空いている椅子へ掛けると、彼は私を睨み1枚のメモを付き出してきた。


「飲んでみてってなんだコレ」

「……良い香りのものは美味しいって昨日テレビでやってたので」

「だからって柔軟剤は無ェだろ!知りたいなら自分で飲め!」


ドン!とテーブルへ置かれたショッキングピンクの容器は私が昼休みに近くのディスカウントショップまで買いに行った今人気の香りがするものだ。昨晩BGMのように自室のテレビをつけていたのに「"美味しい"ではないんです。"良い香り"なんです」と専門家のような人が言っていたことにだけ食いついた。早速試してみようと自宅の柔軟剤を手に取ったが注意書きの【用途外に使わない】に目が止まり、一番ハメを外してくれそうな黒崎のバッグの中に買った直後メモ付きで突っ込んだのだ。
聞いていた竜貴が「ぶっ」と吹き出し持っていたトランプの束がテーブルに散乱し、雨竜がそれを集めながら呆れたように大きな溜息を吐いた。だが直後にピコンと脳内のランプが点灯したのか、彼は口端を吊り上げると4人分に札を配り始めた。


「負けたヤツが飲んでみよう」

「石田!?」

「雨竜のバッグに入れときゃ良かった」

「ちょっと待ってアタシも入ってんの?!」


勝負はババ抜き。

ピリピリした空気の中、私達4人は生唾を飲み込んで目を合わせる。
たまに賭けることはあるけれど、こんなに緊張したことは今までに一度も無い。ババ抜きで。


「こういうのって絶対飲んじゃいけねーから吐き出す時これに染み込ませて捨てよう」

「それは力作!」

「織姫しか褒めてなかったでしょ」

「手芸部のセンス……」


この生地をどうして並べようと思ったのか疑問になるようなパッチワークのトートバッグを用意し、決戦の火蓋が切って落とされた。


「いきなり1枚上に出すってどうなの」

「最初は引っかかってみるべきだ」

「俺は***に飲ませたい」

「とりあえず誰が負けるかの予想はついてる」


なんだかんだ言いながら竜貴も楽しそうに口に弧を描き、1枚、また1枚と皆の持ち札が減っていく。顔に出したら負けなこのゲームだが、表情に関して分かり易いらしい私が最後まで残るのは皆にとって明白だったらしい。1番に抜けた竜貴に続き黒崎がどんなもんだとテーブルの真ん中にカードを叩きつけると、ジョーカーとハートのキングを手札に持っている私と、向かいに座る雨竜が睨み合う形になった。


「こういうのって言い出しっぺが負けるよね」

「僕が***に負けるはずがないよ」

「さっき1回負けたでしょ」

「……負けてない」

「だからどうして嘘つくの!」

「柔軟剤の味を知りたいのは貴様だろう」

「きさ……っ、絶対私が勝つから」


ほら、さっさと引きなよ、と2枚のカードを突き出すと、彼は迷うこと無くハートのキングを引き抜いた。


「なんで!?」

「***ね、目で追いすぎなの」

「うそ?!私さっき雨竜しか見てなかったのに!」

「お前ほんと分かり易いな」

「僕が***のことで分からないことなんて無いからね」


え、それじゃあ私が雨竜を好きなことも知ってるの?と聞いてしまいそうになったが、口に出すギリギリのところでその言葉は飲み込むことが出来た。コーヒーカップに注がれた真っ白の液体を、雨竜が差し出して来たからである。


「甘い香りするんだから甘いんじゃない?」

「洗濯用が甘いわけあるかよ」

「黒崎、有沢さん、少し黙ってくれ。今は***が主役だ」

「全然嬉しくない」


吐き出すならこれに、ともう1つのコーヒーカップと、口を濯ぐようにミネラルウォーターを用意してくれた雨竜は、私なんかより遥かに柔軟剤の味に興味があるように見える。だけど竜貴が言うようにもしかしたら甘いかもしれないし、私のことで分からないことなんて無いと言った彼の言葉が嬉しすぎて、調子に乗った私は意を決して手にしているカップを傾けた。



「ぶぶぶぅぅぅぅ!!!にぎゃぁぁぁああぁ!!」


用意されていた空のコーヒーカップなど全く意味を成さず、私は思いきり含んだ柔軟剤を口から吹き出した。それはもちろん向かいに座っている雨竜が浴びることになったのだが、そんなこと気にしているヒマ無くトイレへと駆けた。

もうこんなこと絶対にしないと誓って。





(石田、大丈夫か?)

(……にがっ)

(え、口開けてたの!?)







END

※罰ゲームは絶っっっっっっ対に真似しないで下さい。
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1万打記念リクエスト/翔子様






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