企画

□【ハーフタイム】カップル高校時代
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「若松、落ち着け」


青峰がまた来ていないことに怒鳴る若松を宥めるのは、我らが桐皇学園高校バスケ部の主将、今吉だ。
眼鏡の奥に見える三白眼がいつも何を考えているのかわからない彼は、頭の回転が早すぎて時々本当に恐ろしくなる。だけどチームのことを想っての行動の方が多いから、何をやらかそうと怒る気にはなれない。というより、私は彼に惚れてしまっている。

同じクラスだった1年生の頃、関西弁で身長が高くて、やたらと頭が良くて知名度が高かった彼に、突然バスケ部のマネージャーに誘われたのが始まりだ。







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「マネージャーはおったがええですよね、先輩」


桜の木に新緑の葉が見え始めた頃、体育用ジャージを着た私がおずおずと体育館の扉を開いた先で、彼がそう言った。
ボールが弾む音とバスケットシューズのスキール音がこだまする館内、怒声も聞こえるそこで私は入り口の前で立ち尽くしてしまう。見下ろされ、睨まれているような感覚に、小さくなることしか出来なかった。校舎内で見たことのある先輩も居て、だけど話したことなど一度も無いから自然と目は今吉くんへ向けてしまう。彼は私を見たままニヤニヤしていて、自分が呼んだくせに、と苛立ちを覚えたのは言うまでもない。


「***、***、です」


詰まりながらなんとか自己紹介をして深く頭を下げてみた。話してくれてなかったのかと今吉くんへの怒りを視線の先の床へとぶつける。ライトが反射するピカピカの床に見えたちょっとした汚れを彼だと思って、思いきりそこを睨みつけた。


「欲しかったんだ、マネ。俺らが勧誘しても見学にすら来てくれなかったから」


よかった、と頭を上げた先で一際大きく見える先輩が微笑んでいた。きょとんとしていたのは私が来たからだったのか、見渡せばそこに居る先輩達は皆口元に笑みを浮かべている。コートで練習をしていた部員の1人が「女子だー!」と叫んだことで、館内にいる人全てが私の前に集まったようだ。
去年までは居たらしい女子マネージャーも、年末に行われる大会後に引退してしまい、それから後がまを見つけることが出来ずにいたらしい。新入生に期待してはいたものの入部志願者は全て選手、サポーターがいないことで雑務をこなすのは全て1年生となっていたところで今吉くんが"自分が見つける"と言い出したという。そのターゲットが私だったというわけだ。
上級生の煌めく目を見て少しばかり引いてしまい、「今日は見学だけ、」と精一杯口にした言葉は聞こえているのかもわからない。助けを求めるように元凶である今吉くんに縋るような目を向けると、彼は既に察しているのかコクコク頷いて私に背を向け先輩達へ向き直った。


「とりあえず見学です。まだ入部決めたわけやないですから先輩らあんまり期待し過ぎるとあとで凹む時しんどいですよ」


わーってるよ!と怒鳴っている人達もいるけれど、そんなことお構い無しという様子で今吉くんがくるりと振り返る。見上げれば彼と視線がぶつかり、躊躇うことなくポンと頭に手を置かれた。


「ほんまに来てく れたんやな。おおきに」


すっぽかすとでも思われていたのか、そう思うと少しだけ腹が立ったけれど、私の頭に乗っている手だとか、柔らかい笑みを浮かべる表情だとか、そういうのが全部私の胸を小さく跳ねさせた。








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