企画

□existenceヒロインが黄瀬と良いカンジ
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久しぶりに、学校で***っちに会った。
クラスはたった3つ離れているだけで、お互いが避けているわけでもないのに会わない理由はたった1つ。有希子さんに言われた一言が原因だ。

"2人きりでは絶対に会わないこと"

同じ事務所で同年齢、学校も同じとなれば変な噂がすぐに出来るからと念を押されて生活している。別にお互い会いたがっているわけでもないから苦にならない。たまたま会った時に「おはよう、おつかれ」なんて挨拶を交わして過ごそうと2人で決めたのがほんの少し前。だけど学校に来ているのかさえわからないくらい彼女の顔は学校で見なかった。それはまあ休み時間にも教室から出ないのが原因で、それは***っちも一緒だと思う。俺同様クラスメイトに囲まれているのだろう。というより、俺より人気の彼女は他クラスの生徒にも囲まれているかもしれない。そう思っていたけれど、女の子達をあしらいながら昇降口を出た先で、目の前を1人で歩く彼女を見つけた。


「***っち」

「あ、涼くん、おつかれ」


仕事時の挨拶をしてくる彼女はこれからスタジオなのだろうか。部活もやっていない俺は暇つぶし程度にしかモデルとして活動していないけれど、見ていてわかる、***っちは本気で仕事をしている。親に勝手に事務所に入れられたという境遇は俺によく似ていて、共感したのも束の間その気持ちはすぐに拭い去られてしまった。撮影を見ていればわかる違い、一生懸命だとわかってからは少しだけ羨ましくなった。俺にも何か夢中になれるものが欲し いと、そう思っているから。


「これから撮影スか」

「うん、でも1回家帰る時間あるから。それじゃ」


家に迎えが来ると言った彼女はニコリと微笑み、そして歩くペースを早めようとする。有希子さんの言いつけを守っているんだと察することは出来たけれど、周りには誰もいないからと離されないよう隣を維持した。


「ちょっとお喋りしよ」

「2人で歩くのダメって言われてるじゃん」

「だーれも見てないッス」


軽く返せば怒られるかとも思ったが、彼女は逆に笑みを浮かべて「知ーらない」と歩むスピードを落とす。バッグを俺の方に持ち直したのは最低限の保険だろう、と真似をしてから口を開いた。


「***っち毎日仕事してないッスか?」

「毎日はしてないよ?そんなに仕事来ない 」

「うっそだー」


久しぶりの会話だけれど緊張なんて全くしない。初めて会ったのもつい最近だというのに彼女にはなぜか壁を感じないんだ。恐らくだけど俺が同じ仕事をしているから、周りとは違うと彼女にもわかっているから隔てなく接してくれるんだと思ってる。


「コンビニ寄ってかないッスか?アイスおごるッス」

「だーかーら、あたしこの後仕事だってば」

「10秒で食べよ」

「頭キーンってなるじゃん」


どれだけアイス食べたいの?と笑う***っちが口元に手を添えるから、そんな上品な仕草に一瞬見惚れてしまった。有希子さんと話している時はどことなく子供に見えるのに、俺とお喋りする時は少しだけ大人に見える。俺が子供だからなのかもしれないけれど、対等に、いや、男としてはちょっと背伸びをしたくなるのは仕方のないことだと思った。


「そういえば***っちってまだ身長伸びてんスか?」


中学1年生の女の子にしては高いはずだ。彼女の頭にポンと手を置いて、何気なくそんな質問をしてみた。俺の肩より少しだけ下にある目が見上げてきては、その表情は困ったように歪んでしまう。頑張って笑顔を向けているつもりだろうが、ぎこちなさすぎて強張っているのがすぐに読み取れた。外でこんな風に触るなってことなんだろうけど、それでも作りきれていない彼女の"顔"には笑いを堪えることが出来ない。少しでも緊張してくれたかな、なんて考えていれば質の悪い悪戯心が目覚めてしまって、無理やり足を止めさせて額と鼻がついてしまいそうな距離まで顔を近付けた。


「まだ伸びるよね。もう少し高くなってくれたら、キスするのに丁度良いッス」


顎を支え、いつもより低い声をわざと出して、息が唇へかかるようにゆっくり言葉を紡ぐ。彼女の大きな瞳がこれでもかと見開かれているのが見えれば驚いているとわかり、俺の口端は無意識に吊り上がった。

ああ、面白い。

このまま本当にこの柔らかそうな唇へ口付ければどうなってしまうのだろう。今の面白味の無い生活からはおさらば出来るだろうか。
奪ってしまおうと唇を寄せれば、顎を支えていた手の甲を思いきり抓られてしまった。


「痛っっっっった!」

「涼くん、近い」


不機嫌な声音でそう言った***っちは目を細めてジトリと俺を睨み、それから1人だけ方向転換して歩き始めてしまう。少し冗談が過ぎたか、怒らせただろうかと慌てて追いかけて後ろから顔を覗き込めば、耳は真っ赤、頬も赤く染まっているのが確認出来た。


「あれ、***っち?ドキドキしちゃった?」

「するよ、涼くんみたいな綺麗な顔あんな近くで見せられちゃ」


もう並んで歩くの禁止、とさぞ怒っているように言う***っちはさっきまでの大人な雰囲気なんて全くなくて、くだらない悪戯なんて思いつく俺と何も変わらないと実感した。


「そんな顔されたら俺も照れるッス」

「……あたしどんな顔してるの」


さらに真っ赤になった***っちがあまりにも可愛くて抱きしめてしまいそうになったけれど、ここは外だし有希子さんに言われたことを思い出してはギリギリの理性で伸ばした腕を引き戻した。
こんな可愛い女の子を恋人だって自慢できる奴は羨ましいな、とまだ恋も知らない同職なだけの彼女を見つめてはそう思った。





(ね、やっぱりアイス食お)

(涼くん話聞いてた?)







END
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1万打記念リクエスト/佳奈様






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