企画

□緑間と黒子が取り合う
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HRが終わるなり教室の扉が開いたことで皆の視線がそこへ集中する。テーピングが巻かれた指で眼鏡のブリッジを押し上げる緑間くんはシンとなっていることなど気にすることなく歩を進め、教室の丁度真ん中にある私の席の近くで足を止めた。


「さっさと行くのだよ」

「う、うん」


ただでさえ身長が高くて目立つ彼は一言だけ吐き捨てて私のバッグを肩にかけると、そのまま踵を返して教室を出てしまう。「今日もお迎え早いね」なんて友達の声に苦笑を浮かべ、未だ誰も立ち上がっていない中で1人席を立った。


「部活行ってくる、また明日」


教室を出る際にそう言い残して拉致されたバッグの行方を追うように駆けると、階段の踊り場に立つその背中を見つけ、スカートが捲れない程度にスピードを上げて駆け下りれば彼と対峙している黒子くんの姿を視認した。会話をしているようには見えないそこへ近づいてみると2人揃って振り向かれ、急ブレーキをかけるように前のめりで足を止める。少しだけ緑間くんの背中へぶつかってしまったけれど、彼は怒ることなく私の肩を支えてくれた。


「***さん、走ったら危ないです」

「うん、ごめんなさい、バッグ持たせちゃってるから申し訳なくて」


黒子くんの言葉に返しながら緑間くんが持つ自分のバッグへ手をかけるも、それはどんなに引いても彼の肩から離れない。私より少し上に目がある黒子くんはそっとこちらへ近付いてきて、徐に私の頭を撫でては緑間くんを睨みつける。最近感じるようになったこのピリッとした 空気が私はどうにも苦手で、2人の間から逃げるように一歩退いて小さくなった。


「緑間くん、とりあえず明良さんのバッグ離してください」

「持ってやってるだけなのだよ」

「返して欲しそうにされてますよ」

「女子更衣室まで運ぶだけだ」

「だったら僕が持ちます」

「黙れ」


おーい、と声をかけたくなるような睨み合いに私は参加することが出来ず、ただただ立ち尽くすだけの時間が過ぎる。2人の顔を交互に見ながら「部活行こう」と漸く声にすることが出来ても私のバッグは返って来なかった。

2年生になってよくこんな事態になるのだが、誰も助けてくれることはない。主将も副主将もマネージャー仲間もそんな様子を見ているだけで、他の部員に至っては面白がっているような気さえする。「早くどっちか決めちゃえばいいのよ」とみっちゃんに言われたことがあるけれど、何をどう決めるのかがわからない。
基準は?
目的は?
何のために選ぶの?
もう何人から"鈍い"という言葉を貰ったかわからないけれど、どんなに言われても何もわからないまま"どっちか決める"なんてことはしたくなかった。


「***さん、今日は1軍にハマるんですか?」

「ううん、今日は3軍」

「よし、チェンジだ」

「緑間くん何言ってるの?」


目的の場所に着いてバッグを押し付けられるように返されたけれど、緑間くんの目は眼鏡の奥で吊り上がっている。隣の黒子くんは呆れた表情を見せ、それから小さく溜息を吐いた。


「最近3軍ばかりですね」

「虹村さんと赤司くんがわざわざ言ってくるの」


私あの2人から嫌われてるのかな、なんて冗談交じりながらも本気で落ち込んでる様に言ってみると、目の前の2人はキッと眉尻を上げ、女子更衣室の扉に勢いよく手をつかれてその中に閉じ込められてしまった。右に緑間くん、左に黒子くんで、扉と2人に挟まれた私はずり落ちるように小さくなる。それでも徐々に2人の顔が近付いてくるものだから思い切って間から抜け出ようとすれば、背にしていた扉がガラリと開いて3人揃って倒れてしまった。


「なんかウルサイと思ったら……なにしてるの?」


中から扉を開けたのはマネージャー仲間のみっちゃんで、呆れた顔で私達を見下ろしている。苦笑しながら上に乗る緑間くんと黒子くんへ声をかけようとすると、彼等は未だ懲りずに私を凝視していた。


「マネージャーなど辞めて俺の専属になればいいのだよ」

「***さん、緑間くんの言うことなんて耳に入れちゃダメですよ、僕にしましょう」

「ああ、そういうことね」


だから早くどっちか選べって言ってるのに、と付け足したみっちゃんに縋るような目を向ければ、漸く助けてくれるらしく「ここどこだと思ってるの?」と男2人を追い出してくれた。


その日の練習で、1軍専属マネージャー決定を真田コーチに言い渡された。





(***がいるとあの2人の調子良いんだって)

(逆に言うと居ないと緑間くんがすっごくイライラしてる)

(黒子に至っては本当にいなくなった気するくらい存在感無くなるから)

(もうどっちかに決めなくてもいいからお前絶対男作るなよ)







END
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1万打記念リクエスト/巫女。様






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