企画

□マイペースヒロインが黄瀬と大の仲良しになる
1ページ/1ページ




暇潰しに出かけたコンビニで雑誌を眺めていると、スラリとした長い足を組んだ人気モデルがソファにもたれて読者へ笑顔を向けている写真を見つけた。あ、黄瀬涼太だ、なんて思ってからページを捲ろうとした時、外に同じ顔を見つけて二度目の「あ、黄瀬涼太だ」は声になって口から出て来た。


「あ、青峰っちの彼女サン」


コンビニへ入って来た彼は真っ先に私を見つけ、雑誌と同じ顔で手を振ってくる。前に大輝に紹介されて一度だけ会ったことはあるけれど、そんなに言葉を交わした記憶はない。軽く頭を下げて「こんにちは」と挨拶をすれば、彼は驚いた表情を見せて首を傾げた。


「え、もっとテンション上がってよ」

「え、私そんなに今テンション上げたくないけど」


店内によく知らない芸人の声が響く中で対峙する私達は見つめあったまま真顔で瞬きを繰り返す。振っていた手を下ろした黄瀬くんは「ふーん」と目を細めて徐に私の手を取った。


「アンタ青峰っち意外には愛想無いよね」

「大輝にも愛想良く振舞ってるつもりないかな」


なんでアンタなの?と悪気は無いだろう言葉に少しだけ腹が立ち、「さあ?」と取られている手を振り解こうとした矢先、彼はその手を引いてコンビニから私を連れ出してしまう。持っていた雑誌を棚に戻すのも忘れてそのまま出てしまったために後から出てきた店員さんに首根っこを掴まれてしまった。


「うわ、何で戻してないの」

「黄瀬くんがいきなり引っ張ったからでしょ?」


事情を話して店員さんに謝ると、意外と簡単に許してもらえてそのまま店を出ることが出来た。自動ドアから少し離れたところで2人揃って立ち止まり、大きな溜息が2つ静かな夕焼け空の下に吐き出された。


「公園行かない?」

「ああ、うん、別にいいけど」


何も予定は無いから断る理由も無くて、近くの公園へ向かいながらどうして突然腕を引いたのか問うてみた。どうやら大輝が私のどこを好きなのか知りたくなったらしく、公園でお喋りしようと連れ出したらしい。万引きの疑いを持たれて気分は最悪だけれど一緒に謝ってくれたから悪い人ではないと確信を得ている。

遊具が並ぶ公園でベンチではなくブランコに腰を下ろすと、彼は怪訝な顔をして隣のそれへ腰掛けた。


「なんでブランコ」

「なんとなく」


キィ、と小さく音を鳴らしながらブランコを揺らせば、隣からも同じ音が聞こえてきた。負けじと揺らせば私よりもさらに大きく黄瀬くんが揺らす。人気モデルは負けず嫌いですか、と考えるも、それに対抗している私も相当だと思った。


「うわ、たかっ」

「黄瀬くんには負けない」

「いや、俺だって!」


高校生にもなって何やってるんだ、なんて思いながらも楽しんでいるのは事実で、だけど意外にも腹筋が疲れることに気付いて漸く足をついた。


「ね、シーソー乗ろ」

「え、」


未だ揺れ続ける隣のブランコを放置してシーソーへと跨り、呆れた顔をしている黄瀬くんを見遣る。早くして、という目を向けてみれば彼は渋々私の向かいに跨った。


「いやコレ体重差考えた?」


微動だにしないシーソーは私が浮いたままの状態で固まってしまい、ビクともしないことが面白くなくてすぐにそこから飛び降りる。直後に黄瀬くんもそこから立ち上がると、彼は滑り台の方へと駆けた。


「うわ、小っさー」


身体を小さくして滑る黄瀬くんを眺めて、私も低い階段を登る。習うように膝を立てて身を縮めると、懐かしい感覚に胸が躍った。


「ちょっと待って、これ楽しい」

「ね!俺も懐かしくてハマったかも!」


何度も何度も滑る度に笑顔を見せる黄瀬くんはやっぱりモデルだと実感する。綺麗な顔はズルイ、なんて思っていたけど、なんだかんだ私も楽しんでしまい出会い頭の苛立ちなんて忘れてしまっていた。


「ヤバっ、暗い!」

「ほんとだ、帰んなきゃ」

「ごめんね***っち、こんな時間まで」


まさか小児用遊具にハマるなんてね、と2人で笑い合えば「納得」と彼は大きく頷く。なんのことだと首を傾げると、ヘラリと笑った目の前の男は私の手を取りぶんぶん振り出した。


「青峰っちがアンタと付き合ってんの。なんか俺すげーテンション上がったもん」

「どこで納得したのかわかないけど私もテンション上がった」


楽しかったね、とまた笑い合って、連絡先を交換すれば、彼はまた満面の笑みを浮かべる。「青峰っちに怒られるかな〜」と然程心配していないような声でそう言った黄瀬くんに否定の言葉を投じると、彼はケラケラ笑って踵を返した。


「送る!」

「え、いいよ」

「いや、そこはOKしようよ!」


誰かに見られたら面倒臭そう、と手を振って離れると、すぐにメールを受信する音が手の中の端末から聞こえる。送り主の名は後ろにいる男のもので、どうして喋らないんだと少しだけ笑ってしまった。


〈 また遊ぼ! 〉


短いメールに〈 大輝も一緒に 〉と返信すると、後ろから叫ぶ声が聞こえた。


「バスケしよ!」


それなら大輝も楽しめるな、と自然と頬が緩むと同時に、口ではなくメールで返事をした。


〈 うん、またね 〉





(え!叫んでよ!)

(やだよ恥ずかしい)





END
━━━━━━━

1万打記念リクエスト/キュン様






(プリーズ ブラウザバック)



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ