企画

□緑間で甘め
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暗くなり始めた空、星の数を数えていると、彼は亡霊のようにヌルリと現れた。


「わっ、ビックリした」

「電話には出ろ」


いかにも不機嫌な様子を醸し出す彼は付き合い始めてもう3年になる緑間真太郎、バスケが上手くて成績も良くて、高身長な上にイケメンという私の自慢の彼氏である。


「え、電話したの?」

「携帯を持つ意味を100字以内で今すぐ述べろ」

「ごめんヤダ」


毎週火曜日、私が通う誠凛高校と、彼が通う秀徳高校のほぼ真ん中に位置するこの公園で、私達は少しでも会おうと待ち合わせしている。何事も人事を尽くす彼に時間を作ってなんて言えないし、私も習い事があるから大した時間は取ることが出来ない。だからほんの冗談のつもりで「週一くらいは逢いたいよ、真太郎くん」と可愛こぶって言ってみると彼の返しは予想外にも「そうだな」と同意のものだった。そっけなくはあったが嬉しかったのは事実で、お互いが一番時間の取れる火曜日、彼の部活が終わるまで私はベンチで星を数える。出来るだけ早く来るようにしてくれているらしいけれど、先日高尾くんに会ったときにしっかり自主練までしていると教えてもらった。さすが、だと思ったし、苛立ちなんてものも覚えなかった。会えるだけで満足だし、ベタベタするような時期はもうとっくに過ぎてしまっている。あ、そういえばベタベタしたことなんてなかったかな。


「なにかあったの?」


隣へ腰掛けた真太郎に何気なく問うてみると、彼は珍しく大きな溜息を吐く。電話に出なかったことを怒っているのかと少しだけ居住まいを正し、もう一度今度は恐る恐る問うてみた。


「ど、どうしたのでしょう」

「夜待たせるのは心痛が絶えないのだよ」


眼鏡を外して手の甲を瞼へ置いた真太郎はまたも溜息を吐いて私を睨む。こんな顔されるのは慣れているし彼の言葉の意味を理解すれば私の頬はだらしなく緩んでしまった。そんな表情でもまた彼の機嫌を損ねさせるのだろうけど、それでも嬉しいものは嬉しい。私のことを心配してくれているだけで胸が苦しくなるくらい好きだと感じる。


「ごめん、でも逢いたいから」

「わかってる」


仏頂面でそう言い捨てた彼はズイッと手にしている眼鏡を私の方へ突き出した。何事かと不思議に思いながらもそれを手に取ると、視界からいなくなった彼はいつの間にか私の膝の上に頭を置いて横になる。片腕で目を隠し小さく息を吐いた真太郎の重みに、私は久しぶりにドキドキしてしまった。


「珍しいね、真太郎からこんなことしてくるの」

「疲れているだけなのだよ」

「練習で?」

「心もだ」


呆れたように紡がれる言葉に私の頬はやっぱり緩んでしまう。心配かけているのは申し訳ないけれど、それでも想われていることで私の心が満たされるんだ。随分自分勝手だと自覚もしているし、中学の頃からどれだけバスケの練習をしているかも知っているから、身体も疲れているのはわかっている。そんな彼に心まで疲れさせるのは私だけなんだと、残酷な優越感に浸りたくて堪らないんだ。会うのをやめようと言われれば文句なんて言わずにその意見をのんで、毎週火曜日は他校へ乗り込んで練習を見に行く腹積もりでもある。迷惑かけるのも承知の上、そんな迷惑をかけられるのも私だけだと思えばまたその優越感に浸れるのだから。


「逢うのやめる?」


余裕のある表情と声でそう問えば、真太郎は目を覆っていた腕を伸ばし私の手首を掴んだ。睨んでくる翡翠色の瞳が私だけを捉えていて、それだけで恍惚の息が漏れそうになる。機嫌を戻そうなんてことも思わない。何を言われても、私は彼の言う通りにするつもりだ。


「やめるつもりはないのだよ」


起き上がった真太郎に掴まれている腕を引かれ、そのまま乱暴に口付けられた。熱い唇が私を求めているのがわかって言い表すことの出来ない幸せな気持ちが溢れてくる。

好きだ、大好きだ。

名残惜しく離れた唇からの熱い吐息だけで、私の頭は痺れを覚える。綺麗な瞳に直で見つめられるのが私は本当に弱いから、手にしている眼鏡を彼に無理やりかけた。


「やめないんだったらこのままでいい?」


挑戦的な笑みを浮かべて問うと彼は負けじと見下すように視線を寄越す。テーピングを巻いた指で眼鏡を押し上げると、小さく鼻を鳴らして口を開いた。


「どこか店に入るか、」


ベタベタすることなんて私は全然求めていない。


「……家にいろ、俺が行く」


彼の一言一言が、私には全て甘いんだ。




(真太郎の家からウチってすごく遠いけど大丈夫?遠慮とかしないよ?)

(余裕なのだよ)






END
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1万打記念リクエスト/ウサピョン様





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