企画

□檜佐木と甘め
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唇に薄い紅をあて、仕事着とは対照的な色味をした衣を纏う。桃がくれたそれは私に似合うと誕生日に贈られたもの。桜色の衣装は気分まで晴れやかにしてくれる。


「いってきます」


誰もいない部屋から返事が返ってくることはないが、それでも私はそこへ声をかける。写真の前には花、小さな仏壇は手製のものだが居場所として私の部屋にある。
東仙隊長が亡くなって、彼は本当にこちら側ではなかったのだと知らされた。泣き崩れる私の背を優しく撫でてくれたのは副隊長。同様に敬愛していた隊長を失い、自分も辛いはずだというのに私を励ますことに尽力してくれた。特別な感情を持ってもおかしくないと思っている。私は、檜佐木副隊長を密かに慕っている。


「早いな」

「副隊長の方が早いじゃないですか」


約束の場所に既に立っていた彼はすぐに私を見つけてくれる。一瞬驚いたような顔をしていたが忽ちその表情は和らぎ頭を撫でてくれた。私より先に来て待ってくれているというのに、どの口が"早い"なんて言うんだ。たしかに時間にはまだまだ早いのだけれど。


「精霊艇通信の取材なんて非番の日じゃなくてもいいんだぞ」

「仕事遅いのでこういう日にやっておかないと。それより、副隊長も付き合ってくれなくていいんですよ?」

「俺はヒマなだけだ」


そんなことを言ってくれるけれど、本当は他隊の女の子から食事に誘われていたのを知っている。彼に対して私と同様の気持ちを持っているとわかっているからこそ少しだけ胸が痛んだけれど、それでも断ってくれたのは嬉しかった。副隊長にもそういう想い慕っている人がいるのだろうか。乱菊さんなんて綺麗だし強いし、私なんかとは比べ物にならないくらい魅力に溢れている。副官会議の時には張り切って出て行くところを目にするから、そういうことなんだと思えてしまうんだ。差がありすぎるから諦めがつく。変に戦おうとも思わない。私はこうやってたまに2人で出かけることが出来れば満足だ。


「ここ最近女性死神協会でよく話題になります」

「俺はここには入んねーぞ」

「えー入ってみましょうよー」


淡い色の小物が並ぶ小さなお店。路地を抜けた先にあるそこは隠れ家のようにこじんまりと静かに佇む。あからさまに副隊長は入店することに顔を顰めたが、軽く着物を引っ張って催促すれば嫌々言いながらも並んで入ってくれる。「いらっしゃい」とおばあさんの小さな声に2人揃って驚いて、それから顔を見合わせてはお互いが 居たのか という表情に変わり笑ってしまった。


「少しだけ写真撮らせて頂いてもいいですか?」

「ええ、構いませんよ」


柔らかな笑みを浮かべるおばあさんに断りを入れて、取材用のカメラを小物達へ向ける。
光の加減で色味が違って見える水晶のネックレスなんかはどの角度で撮ろうか夢中になってしまい、副隊長のことなど忘れてしまっていた。
それから店内と小物の写真を何枚か撮って、彼のことを思い出して振り返ればおばあさんに「ありがとう」と声をかけられている。小さな袋を持った副隊長に疑問符を浮かべ、それから穏やかに笑んでいる表情を見て贈り物だと察しがついた。

何を買ったんだろう、誰に贈るのだろう。

考えれば考えるほど胸が痛み、ここに来なければよかったと最低なことまで考えてしまう。素敵な贈り物が手に入っただろうに、私の心中はどす黒く染まってしまった。


「副隊長、私、今日はそろそろ帰ります」

「お、もういいのか」


すげー撮ってたもんな、と笑う彼に苦笑いで返し、おばあさんに一礼して足早に店を出る。まだまだ日は高くこれから時間もたっぷりあるというのに、もう一緒に歩くことは出来そうになかった。


「それでは、私はここで」


しばらく歩いたところで足を止め、頭を下げて踵を返す。せっかくの非番を私みたいなのが連れまわしてはいけない。彼は贈り物を渡す相手に会いたいのかもしれない。そう考えていると、勝手に涙が出そうになった。


「あー……***」


後ろから呼び止められて、熱くなった目頭を冷ますように深呼吸をして振り返れば、ほんのり耳を赤く染めた副隊長が私から視線を逸らして頭を掻いているのが見える。差し出されている袋は、さっきのお店のものだった。


「……へ?」

「やる」


彼の想い人への贈り物だと思っていたその小さな袋は、私の方へ向けられている。思わず間抜けな声を出してしまったけれど、彼は小さな声で「受け取れ」と付け足した。


「これ、え、私にですか?」

「一番多く写真撮ってたろ」


気に入ったんじゃないのか、と受け取った袋を断りを入れて開けてみると、そこにはあの水晶のネックレス。麻糸が結ってある柔らかなそれは、私が手に取ると着物の色を透かして水晶は淡い桜色に光った。


「副隊長……どうでも良い人にこんなことしたら駄目ですよ」

「あ?」


本当に、なんて優しいんだろう。

可愛くて、綺麗で、だから何枚も写真を撮ったのは事実だ。欲しいとも思った。

だけど、こんなことをされたら、逆に胸がもっと痛くなる。


「どうでも良いヤツにそんなもんやるかよ」


ぶすっと機嫌を悪くした副隊長がさらに耳を赤くする。言っている意味が理解出来ずに瞬きを繰り返していると、大きく溜息を吐かれて睨まれてしまった。


「取材の手伝いなんて非番の日にお前と出かける口実だ。そうじゃなかったら今の時間まで寝てる」


顔を背けて腕を組んだ彼を前にし、漸く理解が出来た私の顔は一気に熱くなってしまう。

それは、私と、同じ気持ちだと受け取ってもいいんですよね。


「檜佐木副隊長、私、副隊長が好きです」


零れそうになる涙を我慢して、精一杯の笑顔を向ける。

手にしていたネックレスを取られたかと思えば、ぐるりと首に腕が回りそれをつけられた。


「ん、俺もだ」


似合ってる、と額に口付けられ、互いに顔を赤くして手を握った。





(乱菊さんへの贈り物だと思ってました)

(お前以外にこんなことしない)







END
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1万打記念リクエスト/カナタ様




(プリーズ ブラウザバック)



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