空は茜色に染まり、いつもは白く見えるグラウンドを紅く見せる。 今日も暗くなるまで練習するであろうバスケ部は、他の部が帰る支度を始めてもボールをしまうことはない。 18時に体育館。涼太くんにそう頼まれた私は、友達とのお喋りを切り上げて足早にそこへ向かう。バスケットシューズのスキール音とボールが床を叩く音、既に聞き慣れてしまった声が体育館に響いている。そっと扉を開けて中を覗くと、3on3のゲームをしているコートにマネージャーが怒ったように叫んでいた。 「早川!無茶したらケガするでしょ!黄瀬もリバウンドいけた!」 「すんません!」 シャツで汗を拭う姿、相手を睨むような目、全員が集中しているのが素人目にもわかる。一際目立つ派手な髪色をした涼太くんは、主将である笠松先輩と対峙しているようだ。 「チェンジー」 肩で息をする選手達がぞろぞろとコートから出て、他のメンバーでまたゲームが始まる。入口でそんな様子を見ていた私に最初に気付いたのは、ドリンクボトルを傾ける森山先輩だった。 「お、***ちゃん」 「おつかれさまです」 焦って頭を下げれば皆の視線が一気にこちらへ向けられる。マネージャーである先輩に「入りなよ」と声をかけられ、ローファーを脱いだところで身体が何かに包まれた。 「時間ぴったりッスね***っち!」 抱き締めてきたのはもちろん涼太くんで、疲れを見せない満面の笑みを浮かべて私を見下ろしている。来る途中で買ったドリンクを渡すとさらに強く抱き締められた。 「オラ黄瀬、監督がもっかいお前入れだとよ」 「なんでッスか!」 「練習中にンなとこでイチャこいてっからだよ!」 笠松先輩に怒鳴られた涼太くんはしゅんと肩を落として踵を返すが、「***っちにカッコイイとこ見せるチャンス!」と両手を思いきり広げてコートへと走る。 「アイツの体力どーなってんだ」 中村先輩の小さな呟きは私にしか聞こえていなかったようだ。 「***ちゃん座って見てる?こっちのコートでシュート練習するから入ってもいいけど」 「黄瀬見に来てんのに何で練習参加させんだよ」 「だってなんか調子乗りそうじゃない」 「たしかに。あのモデル野郎がイキイキしてるのはちょっと腹立つ」 「***!オ(レ)の(リ)バウンド見たか!?」 「早川うるさい」 相変わらずの先輩達の会話に私は苦笑を浮かべることしか出来ないけれど、聞いているだけで仲が良いことがわかる。椅子を用意してくれた森山先輩に一礼してそこへ腰掛けると、両サイドに笠松先輩と小堀先輩が立ち喉を潤し始めた。 「あの、シュート練習は、」 「赤の6番ボール弾き飛ばすからな」 「飛んできたら危ないから俺達が見てるよ」 コートへ目を向けたままの笠松先輩はゲーム中の選手達に声を上げながら私にそれを教えてくれて、ニコリと微笑む小堀先輩は優しく頭を撫でてくれる。 「主将と副主将が護衛してる」 「***何者!」 「ほらほらアンタ達はシュート練ー」 マネージャーに背中を押される中村先輩と早川先輩が何て言っていたのかはわからなかったけれど、振り返った先輩は私へ笑顔を向ける。「喉渇いたらその2人のどっちかパシっていいからね」と絶対に出来ないことを言われて精一杯首を横に振ったが、どこからか戻って来た森山先輩からペットボトルのジュースを渡された。 「相変わらず女子のことになると仕事早えーな」 「だって俺だし」 「笠松には絶対出来ないなー」 側で交わされる会話に入ることは出来ないけれど、笠松先輩はチラチラと私の様子を窺ってはこちらへ目を向けることなく「黄瀬ちゃんと見ててやれよ」と声をかけてくれる。涼太くんはこんなに優しい先輩達とバスケが出来ているんだと思うと、私の頬は勝手に緩んでしまった。 「***ちゃん、いつでも見に来ていいからね」 そう言い残してシュート練習へ加わる森山先輩にまたお礼を言って、キラキラした汗を流す涼太くんへ視線を戻す。今日もカッコイイな、なんて思いながら見ていたら、突然目が合ったけれど彼は眉を吊り上げてしまった。 「あぁ!笠松センパイ!小堀センパイ!近い近い!***っちに近過ぎッス!」 (集中しろ黄瀬ェ!) (だって監督!) (***お前もうこっちで見てろ!) (監督も帰しはしないんだな) END ━━━━━━━ 1万打記念リクエスト/キョ様 (プリーズ ブラウザバック) |