企画

□一護で甘め
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身の丈ほどある大刀を振るう様に見惚れていたのは無意識だった。
立ち尽くしてしまい、その姿に圧倒される。
強面で、だけど笑うととても無邪気で。
差し入れのお団子を落としそうになったのは、声をかけられたからだ。


「おつかれさまです」


夜一さんに教えられたこの場所で、一護さんと初めて知り合った。
派手なオレンジ色の髪をした彼は顔から汗を流していて、それですら綺麗に見えたのは気のせいではない。
お店の売れ残りに近いお団子を差し出せば、白い歯を見せて笑ってくれた。


「今日もすごい汗の量」

「夜一さんほんと容赦無ェ」

「でも手加減されたら修行にならないんですよね」


死神達の鍛錬はこれまで幾度も目にしたことがある。乱菊さんや阿散井さん、隊士の方々のそれはいつ見ても目を見張るものばかりだった。疲れた後の甘いものは格別だからと度々そういう場に呼び出される私は、今回も同様の対応をしているつもりだ。だけど少しだけ持参するお団子の量が多いのは、私が彼を特別に想っているから。人間だと知っているけれど、この気持ちは霊子体も持つものなのだ。


「お前は食わねーの?」


三色団子を頬張る一護さんは隣に腰掛けている私を少しだけ見下ろす。視線を合わせてみると予想以上に近い距離で、煩くなった胸の鼓動が彼に聞こえてしまうのではないかとハラハラしてしまう。焦って目を逸らしたけれど、熱くなった頬は隠すことが出来なかった。


「わ、私は大丈夫です。お店で味見してるので」


そうか、と聞き流したような返答に僅かだが胸が沈む。面白みの無い話をしているのは自覚しているが、それでもこの時間は私にとっての"楽しみ"なのだ。
すぐに再開される修行にまたも気分は落ちてしまう。今日はいつも以上に話をすることが出来なくて、走り去る彼の大きな背中を溜息混じり目で追った。お団子が入っていた箱を風呂敷で包み、店へ戻ろうと立ち上がる。ゴツゴツした岩場に足を引っ掛けないよう視線を落としていると、そこにスッと影が出来た。


「いつもありがとな」


眉間に皺が出来ているようだが優しい笑みを浮かべる一護さんが目の前に立っていて、その奥で夜一さんが困ったように笑っている。
刀を背にした彼は私へ手を伸ばし、手首を掴むとそのまま歩き出してしまった。


「あ、あの、」

「送る」


日が落ち始めた岩場は視界も悪く躓きやすい、だけどその度に引いてくれる手が支えてくれる。修行の邪魔をしてしまった私は申し訳ない気持ちでいっぱいで、それでも今の状況に胸を踊らせた。


「すみません、気を使わせてしまって」

「お前いつも転びそうだからな」


気をつけているつもりだというのに草履はすぐに引っかかる。それは緊張も相俟っているせいで、いつもは上手く歩ける砂利道でも足を滑らせた。


「あ、悪い」

「いえ、……わっ」


引き寄せられた先、私が悪いのだからと謝ろうと顔を上げると、隣に座っていた時と比べものにならないくらいの距離に彼の目が見える。鼻がぶつかりそうなほどの至近距離。顔から湯気がのぼって体温が上がったことがバレてしまうのではないかと思うほど。


「あ、あの、すみません、」


慌てて体制を整えて頭を下げれば、彼のクスリと笑う声が聞こえた。


「やっぱお前甘いにおいするな」

「え、」

「団子とは違うんだけど、」


なんだろなー、と考える素振りを見せる彼は視線を逸らして宙を見上げる。大刀を振るっている時とは違った表情は、私の胸の鼓動をさらに速めた気がしてならない。そんな様子にまで見惚れていると、彼の頬がみるみる朱に染まり始めた。


「あ、そうだ、悪い、早く送る」


再度歩き始めた一護さんは、今度は私の手を引いてくれることはない。少しだけ寂しい気持ちになったけれど、今握られれば脈が早いことに気づかれてしまう。それでも足場の悪い道は続くばかりで、蹴躓いた私は咄嗟に前を歩く一護さんの死覇装を握り締めた。


「うおッ」


驚愕の声を上げた彼は立ち止まって慌てて振り返る。どうしてこんなに躓いてしまうんだろうと恥ずかしくなる上に申し訳ない。修行の最中だというのに私のせいで時間を取ってしまっている。


「わぁもうごめんなさいっ、も、もうここまでで大丈夫ですので、早く夜一さんのところへ、」

「いや、やっぱ手、かして」


私の言葉を遮るようにそう言い放った彼に、乱暴に手を握られる。
私のよりずっと大きな手は、私のよりずっと熱かった。


「あ、あの、一護さん、」

「悪い、イヤなら言ってくれ」


言った直後にさらに強く握られて、離さないと言われている気がしてならなかった。


「いいにおい、か」

「え?」

「あ、いや、なんでもねぇ」





現世でルキアさんが読んでいて少女漫画に、"恋心を抱く相手の香り"についての描写があったことを、それから数カ月後の彼の胸の中で聞いた。





(口に出したのがすげー恥ずかしくなったんだよ)

(それで顔赤くしてたんだね







END
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1万打記念リクエスト/剃刀様





(プリーズ ブラウザバック)



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