朝、学校へ行く前。 様子を見に来てくれる彼は必ず具合を聞いてくれる。 痛みはまだあるか、熱は出てないか。 「必要なものがあれば持ってくるから、遠慮なんてするなよ」 眉間に皺を寄せた強面の彼に初めて会ったとき、私は、恋をしたんだ。 ::: 「え!あの怖そうなのを?!」 黒崎くんに初めて会った翌日にはお母さんに報告をしていて、お墓の前で顔が熱くなったのを覚えている。事故に遭ってから親友に初めて告白してみれば、一度会ったことがあるからか酷く驚かれてしまった。 「百歩譲って優しいから好きになったとかならわかるよ?私も荷物持ってもらったし。でも一目惚れは……***って視力低かったっけ」 「失礼すぎ」 苦笑いでそう言ってやると親友は頭を抱えてしまったけれど、優しいということがわかっているからかそれからは文句の一つも言ってこない。「いいんじゃない?黒崎一護」と軽くあしらわれた後に写メを何枚か撮られて、怒ってみても全然効いていないのがわかるから諦めることにする。バラ撒かないでよ、なんてもう何度言ったかわからないからどうせ意味は成さないだろう。 「それじゃ、明日また放課後来るね」 病室を出る親友の背中を見送って小さく息を吐く。そろそろ遊子ちゃんか夏梨ちゃんが見回りに来るはずだ、と扉へ目を向けていると案の定、控えめなノック音が小さく響いた。 「どうぞ」 「よぉ」 開いた扉の奥には黒崎くんが立っていて、オレンジ色の頭をガシガシと乱暴に掻いている。予想外の想い人登場に私の身体は心臓と一緒に跳ねてしまい吊っている足が少しだけ痛んだ。 「げ、悪い、驚かせた」 痛がっていると本当に申し訳無さそうに謝ってくる彼に、私はただただ笑みを浮かべることしか出来ない。しっかりノックもしてくれて勝手に緊張して足を動かしちゃったのは私なのに、どうして彼が謝るのだろう。 「ううん、ごめん、大丈夫」 「あ?お前熱出てねーか?」 額に感じるのは彼の少しだけ熱い手。顔が真っ赤になっているのが自分でもわかる。だって熱くて熱くて堪らない。 頬が染まっていたのだろう、それで心配してくれたんだと思うとそれだけでも嬉しい。 「熱は無いみてーだけど……一応親父呼んで来る」 「だ、大丈夫!」 大丈夫だから、と踵を返す黒崎くんの制服を掴むと、彼はぎこちなく振り向いて「そうか」と一言だけ残した。 どことなく彼の顔も赤い気がする。驚かせちゃったのかな、なんて考えていると黒崎先生が入って来て、静寂に包まれた病室を目にしてすぐ頭を下げられた。 「一護をよろしくお願いします」 てんてんてん、とBGMが三点リーダになりそうな沈黙の後、気のせいではないくらい顔を真っ赤にした黒崎くんが先生の頭に拳骨を落とす。床で転げまわる先生を飛び越え、扉の前で振り返った黒崎くんが「気にするな」と少しだけ声を張ってくれたけれど、そんな顔で言われたら、期待してしまうじゃないか。 「***ちゃんみたいな可愛い子が義娘になってくれたら俺はご近所中どころか日本中に自慢する!」 そして遊子と夏梨も大喜び!と興奮している 先生の隣、毛布を頭から被って早鐘を打つ心臓を鎮めるのに私は精一杯だった。 (せ、先生、あの、心臓パンクしそうなのでもうやめてください、) (え、うそ、マジだったのか?……真咲に報告してくる!) END ━━━━━━━ 1万打記念リクエスト/らいと!様 (プリーズ ブラウザバック) |