「それじゃ、征ちゃんにはバレないようにね」 ヒラヒラと手を振る実渕の隣には顔を真っ赤にした親友。ホテルの廊下で立ち尽くす私は白目をむく寸前で、隣で無駄に両手両足を広げている小太郎へチラリと目を向けて溜息を吐いた。 「ほんとに部屋一緒だなんて」 「続きはクリスマスってお前も言ってたじゃん」 キラキラした表情でそんなことを言ってくるもんだから何も言い返せないのが悔しい。 部室で無理やり唇を奪われてから小太郎を意識し過ぎてしまって、ドキドキしていればまんまと樋口先輩に勘付かれて部員全員に広まってしまった。そう、この煩い猫目と私が恋仲だということが。 「ついに!この日が!」 部屋へ入ってすぐにベッドへダイブする小太郎に「靴脱いで」なんて落ち着いたことが言える私はペットの飼い主さながらだと思う。小さなテーブルにあるケトルへ手を伸ばし、持参したコーヒーを淹れようとミネラルウォーターを荷物の中から出した途端、背中に感じた重みにドキリと心臓が大きく跳ねた。 「風呂一緒に入ろうぜ」 耳元で囁かれて熱い息がうなじにかかる。いつもより低い小太郎の声は私の体温を一気に上昇させ、触れている部分はさらに熱く感じてしまう。腰に回された腕はがっしりと私を捕まえている上に比べられないくらい大きな身体に難なく包まれている。いつも無邪気に笑っているというのに突然"男"になるからズルくてムカつく、ドキドキしてしまうのが悔しくてしかたない。さっきまで落ち着いていられた自分を疑いたくなるほど緊張した身体の熱が小太郎に伝わってしまうかもしれない。ちゅ、と一瞬のリップ音は耳に口付けられたもので、ビクリと身体が跳ねたのは隠し通せなかったようだ。 「なーんか***ビビってる?」 「び、びびってない」 「んじゃ一緒に入ろ!」 軽々と身体を持ち上げられたかと思えばそのまま肩に担がれてしまって、静止の声なんて聞くはずないとわかっていながらもそれを口にすることしか出来ない。勢いよく開かれた扉の音で覚悟を決めたつもりだったが、それから小太郎はピタリと動きを止めてしまった。 「……せま」 ただそれだけで理解出来た。 そりゃそうだ、ホテルなんてほとんどがユニットバス、湯船の中で2人で身体を洗うなんてシャンプーしてたら肘当たり放題だろうしただでさえ大きな小太郎とそんなとこ入ったら狭すぎて洗えない。ゆっくり浸かることくらいなら出来るだろうけどどうせゆっくりなんて出来ないだろう。 「コタロ、とりあえず降ろそうか」 床へ足をつけて見上げればあからさまにしょんぼりした顔が目に映る。小太郎の大きな目も私を捉えているようだがそんな顔されても無理なものは無理。私は嫌だ。 「そんな顔しないでよ」 「だってオレ風呂一番楽しみにしてたのに!」 え、なにそれ怖い。触れてくるのは付き合う前から多かったにしろ全裸で身体を洗い合う?みたいなこと?出来るわけがない恥ずかしすぎる。 「いいからほら、先入っていいよ。汗かいたでしょ」 「いややっぱ一緒に入ろ」 「バカ言わないで。狭い、ッ、」 落としたミネラルウォーターを拾おうとしたところでまたも身体が宙に浮く。ガタンッ、と大きな音と共に座らせられたのは洗面台の淵の部分で、アメニティグッズも音を立てて床へ落ちてしまった。だけどそんなこと気にも出来ず鏡に頭を押し付けられている。激しい口付けに息をするのも難しい。思い出すのはやっぱり部室でのことで、イヤでも"男"だと感じさせられる。 「んッ、コタ、」 「許せよ、オレ***のことすげー欲しいの」 首筋に吸い付かれる度に声が出るのを我慢し、固く閉じていた瞼を上げると、そこには。 「大きな音がしたと思えば。小太郎、***、何をしている?」 この目にだけは絶対睨まれたくないと思っていたオッドアイとしっかり目が合ってしまって逸らすことも出来なければ身体もビクともしない。なんとか盛っている小太郎の頭を身体から引き剥がして振り向かせると、彼もピタリと身体を硬直させた。 「あっれー……赤司どうしたの?」 「僕の部屋は隣だ。騒ぐなと言いに来たつもりだったが」 少しばかり笑みを浮かべた主将がお怒りだということは2人して簡単に察することが出来て、冷や汗は止め処なく溢れてくるというのに言い訳のひとつも思い付かない。とにかく真っ先に頭に浮かんだのは親友と実渕の安否。ごめん、バレた、と心の中で謝罪の言葉を述べてみてもこれからどうしようなんて考えることもイヤになった。 「***、部屋へ戻れ」 「りょ、りょーかい。征十郎くんの仰るとおりに」 明日も試合あるんだぞと怒られる小太郎を残して部屋へ戻ろうとしたが、とりあえず戻れるわけがないと考えて非難するのはもちろん樋口先輩の部屋。 (ごめん実渕、バレた) (もう!なにしてんのよ!) END ━━━━━━━ 1万打記念リクエスト/ねお様,ヒメ様 (プリーズ ブラウザバック) |