企画

□今吉と関西弁ヒロイン
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「今吉がおかしい」

「なんか怖い」

「アイツ今度は何考えてんだ」


体育館の隅で汗を拭っていれば小声でそんな会話が聞こえてきた。諏佐も含めて3年の連中だが後輩はその輪に入っていないだけで怪訝な表情を浮かべている。
たしかにいつもより口数が少ないのは自覚している。面白そうなことも浮かばない。そして苛立っている原因もわかっている。青峰だ。ヤツが来ないことは慣れたものだし無理やり連れて来いとも言わないが、練習前の桃井からの報告が苛立たせるのに申し分なかった。

"すみません今吉さん、今日も青峰くん引っ張って来れなかったです。というかなんだか約束があるみたいで。相手が***先輩だったので断れなんて言えませんでした"

***と約束?そんなこと聞いてもいない。
別に自分の女ではないから縛り付ける権利もないのだが、わざわざ同じ中学から一緒にここへ進学してきたのは隣に居て欲しかったから。告白なんてしてしまえば「冗談やろ」なんて笑い飛ばされるのが目に見えているから脅しにも近いカタチで東京まで連れて来たというのに。
それが、まさかの、青峰。
アイツが最強だと思ってはいるが***を取られるなんてごめん被る。許せるわけがない。***に関してだけは対抗させてもらうつもりだ。





:::





「あーークソッ!さつき!テメ、マイちゃんの写真集どこやった!」


そろそろ昼休憩に入ろうというところで、勢いよく開いた扉から青峰が顔を出した。不機嫌極まりない様子なのは見て容易にわかる。だが、こっちも負けず劣らず苛立っているんだ。マイちゃんの写真集はどうでもいいが***はどうした。どこ行って何して来た。


「青峰〜〜〜」


ピシリと空気が固まったのがわかった。冷や汗を流す桜井や1・2年を横目に3年の連中は我関せずと諏佐の支持を待っている。面倒臭そうに頭を掻く青峰へ歩み寄ったところで、目の前の男はさらに不機嫌な表情で睨んできた。


「ンだよ」

「給食だけ食べに来た小学生か?来る時間はどうでもええけど今までどこで誰と何しとったか説明してもろてもええか」

「……関係ねーだろ」

「オマエには興味ない」

「だったらべつに話す必要もねェな」


ガシガシと頭を掻いて踵を返した青峰は、マイちゃんの写真集の行方を聞く前に入り口から離れてしまった。日曜日の今日しっかり制服を着て学校へ来たということは彼女がここまで連れて来たのだろう。今まで***と一緒に居たとわかっているからこそその言動にまた腹が立つ。


「***が練習出ろ言うたんやないんか?」


遠ざかる背中へ少しだけ声を張れば、ダルそうに歩いていた足がピタリと止まる。さらにこめかみの血管を浮かばせて振り返った青峰に、ニヤリと挑発的な表情を見せてやると心底不機嫌な様子で口を開いた。


「るっせーよ。***さんが制服着て来いっつったから着てるだけだ。ここに来たのはマイちゃん目的。あの人はソッコー帰ったっつの」


小さく舌打ちをしてまた背中を向けられる。彼女と何をしていたかはわからなかったが、それでも一緒に居たことは事実らしい。2人で会うような間柄ではないはずだというのに、一体何をしていたんだ。


「ちょっと青峰くん!来たんだったら練習出ようよ!」

「ダリーんだよ、クソイライラしてんだから話しかけんな、ブス」

「っ、な、なによーー!先に声かけてきたのそっちでしょ!」


マイちゃんの写真集は!捨てました!とギャーギャー言い合う青峰と桃井のこれはもう見慣れているのだが、黒い方はたしかにいつもより機嫌が悪いようだ。後ろから諏佐に話しかけられるまで喧嘩を眺めていても、頭の中は***と何があったんだろうとそれだけが巡っていた。





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