※作品の都合上名前変換無しです。 「あ、噂の黄瀬くんの彼女だね」 「う、噂なんですか……?」 「笠松から聞いてたんでしょ?私も浩志に名前聞いたし」 「アンタの顔見た一瞬で飛びつくもんね、黄瀬。由孝じゃ考えられない」 「あ、でも森山先輩もこの間後ろから、」 「わーーー!言わないで!」 「後ろから?なに?森山ってば後ろから何したの?」 彼女達以外の客がいない小さなカフェ。窓際の"いつもの"テーブルにコーヒーカップが3つ、海常高校3年のバスケ部である笠松、小堀、森山の恋人が談笑している中に黄瀬の恋人が顔を出した。 綺麗に揃えられた髭をたくわえた店主には見慣れた光景で、他の客が来店するまでは声量も抑えることなく自由に過ごさせている。常識はあるために彼女達だけでなくなった途端、一気に空気は落ち着いたものに変わるのだ。 今日彼女達が集まったのは他でもない。自身の恋人が出る高校バスケットボールの大会、WCの応援についての細やかな会議である。いつもは仲の良い3人で座るテーブルにぎゅうぎゅうに詰め込まれた椅子は5つ。黄瀬の恋人へミルクティーが出されたところで、笠松の恋人がまた口を開いた。 「あれ?そういえば5人なの?もう1人ってだれ?」 何も聞いていないと首を傾げる森山と黄瀬の恋人を横目に、小堀の恋人が自慢気に顎を上げて話しだす。「フッフッフッ」とわざとらしい笑い声を上げた彼女は携帯の中から1枚の写真を表示させた。 「……中村?」 「早川よ。で、コイツがどうしたの?」 ニッコリと笑みを浮かべた小堀の恋人が「実はね、」と話し出そうとしたところで、カランコロンと店の扉が開く音が店内に響く。途端に静かになった彼女達が一斉にカップを持ち上げたところで、店主の「お待ち合わせですね」という声が皆に届いた。 「あの、海常高校の……?」 カップへ口を付ける前に新しい顔が肩で息をしながら1つのテーブルの前へ出る。小堀の恋人が「あ、」と声を上げた直後に彼女は棒付きキャンディを両手に4つ乗せて差し出した。 「すみません、遅くなってしまって。正直言うと道に迷ってました」 お詫びです、と小さくなったのは早川の幼馴染であり、最近その彼と恋仲になったという女の子。説明をされた面々が「え、早川?!」と驚く中で、小堀の恋人が椅子を引いて座るよう促した。 「さて、今年のWC応援はこの5人で行く!」 「アンタいつの間に早川の彼女にまでアポとってたの」 「私を誰だと思ってるの?海常の副生徒会長よ?」 「関係ないでしょ」 「す、すごいです……!」 「あの、私も行きたかったので、お誘い頂けて嬉しいですっ」 「それより早川に彼女が出来てたなんて知らなかった」 「マネージャーが知らないのになんでアンタが知ってるの」 「浩志待ってる時になんとなくね。まさかビンゴだとは私も思ってなかったけど」 少しばかり浮ついた様子であった早川に鎌をかけてみれば簡単にボロを出したらしい。小堀には言うことなくその恋人は連絡先まで早川に聞きだしていたようだ。 「それより黄瀬くん!昨日久しぶりに練習見たけどなんかスゴイね!テンション上がった!」 「アンタがキャーキャー言ってたから笠松ご機嫌ナナメだったんだからね。マネージャーの気にもなって」 「涼太くん最近思いきりバスケ出来てるみたいです」 「え、え、キセリョの彼女?!」 「そう!この子があの黄瀬涼太の彼女!」 小堀の恋人が胸を張って言い放つ隣で森山の恋人が「なんでアンタが自慢してんの」と呆れながら笑う。 常連サービスで出されたパンケーキに舌鼓を打ちながら、彼女達の口は止まることはなかった。 「幸男もそれなりに身長高い方だと思うのにバスケ部見てたら小さく見える」 「私の浩志に勝ってるのはキャプテンシー部分のみ」 「そんなことない」 「森山は黙ってたらイケメンなのにね」 「由孝は私からすればいつもカッコいい。黄瀬は常にイケメンだけど」 「涼太くんはバスケしてる時が一番キラキラしてます」 「みっつんはどんなカンジですか?」 「みっつん?」 「あ、早川の下の名前充洋っていうの」 「へー初めて知った」 「アンタほんとに人の名前覚えるの苦手よね。笠松が何回も教えてるとこ見た事ある」 「私も教えたことある」 「まあまあいいじゃん。早川はとにかく元気だよねー」 「リバウンドの練習量が尋常じゃない」 「あ、写真あげようか?練習試合の時とかの、」 「欲しいです!!」 「あの、もしあったらでいいんですが、私も涼太くんの写真……」 「この子ものスゴイ量撮ってるから絶対あるよ」 「うん!持って来るね!でも少しでも幸男が入ってたらあげない」 「かろうじて写ってるくらいならあげなよ」 「あ!この前の練習試合の浩志の写真!」 「由孝もちゃんと撮ってくれたー?」 「撮った撮った」 「やった、みっつんの試合中の写真……!」 「試合観に来たらいいじゃない」 「そうそう、毎回カメラぶら下げてはしゃいでるのもいるんだし」 「なんか、照れちゃって、」 「私は浩志の試合観に行ける時は全部行ってる!」 「私もみっつんの試合観たいです〜」 「WCで観れるよ」 あ、と何かに気付いたように彼女達の声が揃う。空は紅く染まり、地面まで橙色に変わっていた。 WC応援のミーティングはまた今度、とその日は各々の彼氏についての情報交換が暗くなるまで行われた。 END ━━━━━━━ 1万打記念リクエスト/タマ様 (プリーズ ブラウザバック) |