企画

□existenceヒロインと青峰のデート
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バスケ部も午前中で練習は終わり、私の仕事も朝早くからで正午には家へと帰された今日、さつきと女2人で街をぶらつこうと計画を立てていたというのに、待ち合わせの場所には彼女の幼馴染が立っていた。


「あれ?青峰くん?」

「おー」


頭をガシガシ掻きながら気だるそうに私へ向き直った彼はひとつ小さな溜息を吐いて事の経緯を話し始める。部活中にさつきの具合が悪くなったこと、家へ帰るなり外出禁止令が出されたこと、私が楽しみにしているからとさつきの代わりに青峰くんが出動となったことを大雑把に聞かされた私は「電話くれたらよかったのに」としか返すことが出来なかった。


「だから俺がおめェの買い物に付き合うってことだ」

「え・・・・・・青峰くんが?」

「ンだよ不満か」


言っとくがさつきに振り回されて慣れてンぞ、と面倒臭そうにしながらも私が動くまでその場から動く気はないのであろう青峰くんは「とりあえずあの辺だろ」と目的地の方へ指を差す。確かにあのビルへ入ろうと思ってはいたが今日は別に買い物をするわけではない。女2人で[あ、これカワイイ]とか[絶対似合う!買わないけど]などといった暇潰しデートのようなことをしたかっただけなのだ。喉が渇いたらタピオカ入りのドリンクなんか飲んで小腹が空いたら歩きながらクレープを食べたり。今まで友達と一度もそんなことをしたことがないから私がやってみたくてさつきにお願いしたというのに。体調を崩したのなら仕方のないことだから無理して青峰くんを召喚しなくても怒ったりすることなんかないのにあの子はどれだけ気を使うの。


「おら、行くぞ」

「いいよ青峰くん。せっかく練習も早く終わったんだし私に付き合わなくても、」

「楽しみにしてたんだろ」


私の言葉を遮るように早口でそう言った彼は振り向きもせずに歩き出してしまう。態度とは真逆にも実は結構優しいんだな、なんて思いながら後を付いて行くも本当に彼と楽しめるのだろうかと疑問が浮かぶ。だって私は"女"2人でハシャギたかったのだから。


「で?なに買うんだ?」

「なにも?」

「はァ?」


素っ頓狂な声を上げながら振り向いた青峰くんに私も負けじと首を傾げる。だって本当に買いたい物なんて何も無いんだもの。


「さつきとぶら〜っとしたかっただけなの。だから本当に大丈夫。それでも私に付き合ってくれるんだったらさつきのお見舞いに、」

「だったら俺に付き合えよ」


またも言葉を遮られた私は言い放たれて立ち尽くしてしまう。そのまま振り向きもせずにスタスタと歩き出した彼を理由もなく追いかければ大きなスポーツショップの入口を潜った。入るなり綺麗に並べられたバットや野球ボールが目に映り、簡易的に区切られた隣には様々な大きさのサッカーボールが積まれていて小さな男の子が父親であろう男に「もっと大きいの!」と背伸びをしながら叫んでいるのが見える。そんな様子に目もくれずどんどん奥へ入って行く青峰くんを見失わないように早足になれば、バスケのコーナーであろうスペースで彼は消えてしまった。


「わ、ボールーー」


人口革のバスケットボ ールを手に取れば独特な匂いが鼻腔を擽る。おじいちゃんに買ってもらった時のことを思い出して指先でくるくると遊んでいると、横から伸びて来た手にそれを取り上げられてしまった。


「ボールじゃねーって。シューズ」


不機嫌そうに目を細めた青峰くんが手にしたボールを器用に親指の第一関節で回し出す。うわ、そんなところでも回せるんだ、なんて思いながら追いかけていけば色とりどりの生地で飾られるバスケットシューズが目の前に並んでいた。


「どれにするの?」

「モデル・・・・・・センス良いんだろ」


私に選べとでも言っているのだろうか。
もはや青峰くんはシューズなんて見ずに指先やら手の関節やらでボールを転がして遊んでいる。センスが良いのかは置いといて似合うのを選べば良いってことだよね。


「これ」


並べられているものを全て見る前に目に付いたものを手に取る。一応彼に似合うかどうかも頭の片隅で考えてはみたがほとんど一目惚れだったかもしれない。


「黒ォ?」

「青峰くん黒いし」

「どんなセンスだよ」

「かっこいいもん、これ。これがいい」


半ば無理やりそれを押し付ける。気に入らないんだったら自分で戻すだろうし別を選べと言われれば今度は黒色以外のものを探すつもりだ。手にしたシューズをまじまじと見つめる青峰くんに「さつきにも聞いてみる?」と携帯を取り出したところで彼はそれを抱えたまま踵を返す。店員さんに話しかけた直後にはレジでお会計まで済ませてしまった。


「え、ほんとにそれでよかったの?」

「あ?テキトーだったのかよ」

「ううん、そういうつもりじゃないけど」

「お前がこれっつーんだったらこれでいい」



:::



それから新しいシューズが入った大きな袋を手にしたままアクション映画を観て、小腹を満たすためにカフェでお茶をして、ママがたまに買ってきてくれるケーキ屋さんでお気に入りのシュークリームを調達してからそれを青峰くんに持たせた。
日は完全に傾いて空も紅と群青色で綺麗なグラデーションに彩られている。一番星を見つけた時に時計を確認してみると予想以上に時間が経っていたようで2人して目を丸くした。


「さつきにそのシュークリーム渡してね」

「自分で渡しゃァいいだろ」

「時間も遅いし今から押しかけるのは気が引ける」


お大事にって伝えてね、と付け足してから踵を返すと、思っていたよりもずっと楽しかったと気が付いた。


「***!」


振り返れば無邪気な笑顔を浮かべる青峰くんが、新しいシューズが入った袋を掲げていて。


「ありがとな!」


つられて私も頬が綻んでしまう。


「こちらこそ!ありがと!楽しかった!」


外で大声を出すなって有紀子さんに言われているけれど、人が集まってきたことで名残惜しい気持ちも引きずらなくて済んだ気がした。





(なぁさつき、俺の次のシューズ何色が良いと思う)

(黒。ねー***とどこ行って来たのーなに満足そうな顔してるのー)







END
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1万打記念リクエスト/なな様






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