企画

□【クリスマス企画2015秀徳高校バスケ部のクリスマス直前恋模様-緑間】カップルのその後
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〈 すぐ来て!真ちゃんがヤバイ! 〉


という高尾くんからのメールを見て図書室から飛び出した。
久しぶりにバスケ部が終わるのを待っていた私は小説を読みながらもその本の内容は全く頭に入っていなかったと思う。いつも遅くなるからと待つことを許してくれなかった緑間くんが今日は珍しく一緒に帰ろうと誘ってきてくれたんだもの。嬉しくて、少しだけ緊張して、ただただ活字を眺めるだけの時間潰しをしていたところにそのメールは届いた。


「***さん速い!2分!」


バスケ部が練習している体育館の扉を開ければすぐに私を見つけたのは高尾くんだった。「緑間のことになると素晴らしいね」なんて笑っている彼のジャージを掴んで震える声でその本人の居場所を問うてみれば、ニヤついた視線がスッと私から逸れる。追えば壁際にいる緑間くんへそれはぶつかり、勢いのままそちらへ駆けた。


「緑間くんどうしたのっ、怪我……?」


切れた息を整えながらそう声を掛ければ呆れたように溜息を吐かれて目が合った。後ろでは高尾くんがマネージャーさんから叩かれているようで、「大袈裟!***ちゃんになんて連絡したの!」と怒気の含まれた声も聞こえてくる。
どう見ても平気そうに見える緑間くんが眼鏡を押し上げたところで、周りの視線が自分へ集中していることに気が付いた。名前は知らないけれど見たことがある隣のクラスの人とか、緑間くんと一緒にコートに立ってる3年生とか、苦笑している大坪キャプテンさんまでいきなりやって来た私に目を向けている。部活中に部外者が突然乗り込んでくれば注目を浴びないわけがない。一気に顔に熱が集まり小さくなるように肩をすくめた。


「バカ尾か」


もう一度深い溜息を吐いた緑間くんは壁に手をついてからその場に立ち上がる。よく見ると足首に包帯を巻いているのがわかりよろけながら私の頭を撫でてくれた。


「真ちゃん惜しい!高尾!オレ高尾ね!」

「黙れ、***にどんな連絡をしたのだよ」


ムスッとした表情で高尾くんを睨む彼は私の隣へ立つと小さく息を吐き、今度はこちらへ細めた目を向ける。見下ろされた威圧感と不機嫌だとわかる目で私の身体は一気に強張った。


「お前もアイツの言うことをホイホイ信じるな。まだ練習は終わってないのだよ」


うっ、と口篭り返す言葉も見つからないと俯いてしまう。呼ばれたからといって断りもなく練習中の体育館へ突然乗り込んだのは事実。呆れている主将と副主将へ頭を下げれば優しく許してくれたものの、緑間くんは後で怒られてしまうかもしれない。なんてことをしてしまったのだろう、私。


「いやいやいや足捻ったんだから練習になるわけないじゃん?だから***さん呼んだっつーのに」


ねー宮地さん、真ちゃん帰ったがいいっすよねー、とわざとらしく大声を上げる高尾くんに宮地先輩は眉を吊り上げて緑間くんへ迫る。アワアワしている私を大坪キャプテンが「大丈夫だから」と宥めてくれるけれど空気はそれほど大丈夫だと思えない。


「明日の練習試合お前出なくても勝てるとこ見せてやらァ」



:::



小さく足を引き摺りながら隣を歩く緑間くんは全く口を開かない。バスケのために人事を尽くしている彼が練習試合でもコートに立つことが出来ないのは悔しくて堪らないのだろう。顔を覗き込むようにチラリと視線を上げてみれば目が合った瞬間に彼は足を止めた。


「高尾に何と言われた?」

「え、」

「連絡を貰ったのだろう」

「あ、うん、緑間くんがヤバイからすぐ来てって、」


悪い想像しか出来なくて何も考えずに体育館まで飛んで行ってしまったことを謝れば、フワリと頭を撫でられる。長い指にはテーピングが巻かれているけれど、髪に引っかからないように優しく梳いてくれる動きは滑らかだ。あの日から、緑間くんが初めて"好き"という言葉をくれた日から、不安でいっぱいだった私の心だけ雪が溶けて春になったように暖かくなっている。相変わらず私にも容赦のない言葉を浴びせてくることはあるけれど、それでも私のためだとか心配しての発言だとか、彼の特別な存在だと分かってしまうから幸せで堪らない。

ああでも、こんな風に二人でいられる時間は幸せだけど、足を怪我しているのだからいつものように……。


「あの、緑間くん」


少しだけ前を歩き始めた彼を呼び止めれると、長い指が眼鏡を押し上げているのが見えた。


「私とより高尾くんと帰った方が良かったんじゃない?……今日の蟹座2位だったし、緑間くんがジャンケン負けることないだろうし……」


歩かずにチャリアカーに乗った方が、と徐々に語気が弱まりながらも最後まで聞いてくれた彼は、ふっ、と私へ影を落とす。暗くなった視界を不思議に思い顔を上げれば、これでもかと睨んでくる緑間くんから反射的に身体が一歩退いだ。


「み、緑間くん……?」

「俺がお前と帰りたいから帰っているだけなのだよ。帰る手段ぐらい俺が決める。お前が嫌と言うのならここで分かれるが」


フンッと鼻を鳴らしながらまたも眼鏡のブリッジへ手をかけた緑間くんは、少しだけ頬を隠すようにして顔を背けた。冷たい風で靡いた彼の緑色の髪がサラサラと音を奏でているようで、見上げる私にはどうにもそれが全て計算されているようにしか見えない。

末期だ、彼の全てが美しい。


「……肩、使って?」

「こっちの方がいいのだよ」


隣に並んだと思うとすぐに繋がれた手。

触れるだけ、指が引っかかっているだけのようだけど、それでも熱いことがわかる。

やっぱり付き合い始めの頃より、彼が近付いてきてくれている。




(蟹座2位だったのに怪我なんてツいてなかったね)

(いや、そうでもないのだよ)







END
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1万打記念リクエスト/みよん様




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