***が退部?!という騒動から1週間。もうほんとに分かり易いくらい真ちゃんが彼女にべったりだ。きつい言葉を投げつけていたあの日常が今では真逆と言っていいほどベタ甘。俺達よりも気にかけているんじゃないかと思うほどアイツは***を目で追う。いや、目で追っていたのは変わってないか。それだけは以前同様、単に真ちゃんが自分の気持ちに気が付いていなかっただけなのだから。 「わわ、わっ!」 「だから俺が持つと言ったのだよ!」 もう何度目かわからない体育館入口の段差に躓いた***の手からドリンクボトルが転がり落ちる。後ろから「転ぶなよ」と真ちゃんが声をかけていたにも関わらず彼女はまんまと膝から落ちた。散らばったボトルよりも先に***の頭を撫でる真ちゃん、「イタイ……」と顔を顰める彼女はまたやってしまったと眉尻を下げているがその顔も真っ赤。安定だ。安定すぎて辛い。 「それだけの量持っていれば足下が見えないと言っただろ」 「だってマネの仕事なのに緑間くんに手伝ってもらったら私がいる意味なくなる」 「いてくれるだけでいいと言ったのだよ」 「それでも存在価値は欲しい!」 周りを見てくれ頼むから。どれだけの男が歯軋りしてると思ってるんだ。 どこからどう見ても両想いだというのに付き合っていないことがさらに歯痒い。そこまで見せ付けてくるならいっそ交際を開始してくれと叫びたくなる。2人ともどこまで奥手なの?ガンガンいけよ真ちゃん!こっちの気持ちも察しろ。 「緑間テメェちったァ離れろ!すり潰すぞ!」 「嫌です」 宮地さんの暴言にも怯むことなく拒否の言葉を返す。まじで***のこと好きなんだなって俺もわかってるから目の前の2人を応援したくなるんだ。だって俺は真ちゃんの影だから。影ながら応援するって決めてんだ。 「***、まだ痛むか」 「ううん、もう大丈夫」 拾い上げたボトルは真ちゃんが何個持っているかわからない量、***は両手に1つずつ。 「わぁ!もう!私が持つってば!」 「お前の足に傷が出来るほうが心苦しいのだよ」 ほんっとに 見 せ つ け て く れ る。 真っ赤になっている***の顔、飄々としている真ちゃんは自分がどんな殺し文句言ったのかわかっていないのだろうか。宮地さんが地団駄を踏む姿を横目に大坪さんが苦笑いしているのが見える。***の父親ポジションを獲得している彼も役得だと思うのは俺だけではないはずだ。なにせゲームが終わった後に彼女の頭を撫でれば洩れなく真ちゃんに睨まれる全員に対しキャプテンだけはそれが許される。あとは本人である真ちゃん、のみ。大坪さんも羨ましい。 「***ってさ、真ちゃんのこと好きなんだろ?惚れちゃったんでしょ?」 真ちゃんが入っている3on3を眺めながら隣にいる***に問えば「うん!」と元気に返される。白目むく、まじで俺。 「付き合わねーの?」 「緑間くんの気持ちがわかんないし、今のままでも充分って思ってるからそういうのはいい」 足枷にはなりたくないから、エースの。 頭を抱えてしまう。 まあたしかに独占欲の塊みたいになってる今の真ちゃんがずっと一緒にいるこの状況ならたしかに充分だろう。付き合ってるって言ってもおかしくない、外観。想い合っていてこの状態に本人達が満足しているのなら余計なことはしない方が良いと思ってる。さすが俺、さすがエースの影。 だけどどちらかが一歩前へ踏み出そうとするのなら俺は全力でその背中を押すつもりだ。だって俺は2人ともスキだから、もちろんチームメイトとして。 「高尾くん見た?!緑間くんいつもよりリリース早い!」 わー!と隣で満面の笑顔を見せる***。ゲームが終わればすぐに真ちゃんが寄って来てその頭を撫でる。ギロリと俺を睨みつけてから。 「んな睨むなって真ちゃん、***ちゃんにはなんもしてねーから」 「当たり前なのだよ」 早くくっついちまえなんて思ってたけどくっついてるも同然だった。 見守る、俺。 ちょっとだけ辛いけど。 (真ちゃん調子いいな) (***がいるからな) END ━━━━━━━ 1万打記念リクエスト/かんな様 (プリーズ ブラウザバック) |